研究実績の概要 |
リグニンは木材中において非常に複雑でランダムな三次元網目構造をとる。これまで数多くのリグニンの構造研究がなされてきたが,いずれの結果もリグニンが有する官能基や, その単量体の単位間における結合様式の分析データを蓄積したものであり,リグニン全体の構造をダイレクトに示すものとはいえない。一方で,合成高分子を,それと相溶性を示すポリマーマトリックス(PM)中に分散させて原子間力顕微鏡(AFM)で観察することにより,孤立した単分子鎖の明確な像を得た例がある[例えば J. Kumaki: Polym. J., 48, 3 (2016).]。さらに前年度までに,粉砕とセルラーゼ処理を施した木粉から抽出したリグニン(CEL)と相溶性を示すPMを見出した。そこで本年度は,このPMでCELを希釈していくことにより,より単分子に近いCEL分子形状の観察を試みた。 CEL/PM = 1/99,0.5/99.5,および0.1/99.9のブレンドにおいて観察されたドメイン約500個分の数平均直径(Dn),重量平均直径(Dw),ならびにばらつきの指標である多分散度(Dw/Dn)をそれぞれ算出した。CEL含有率の低下に伴いDn とDwの値が減少し,島状ドメインの個数の減少が目視で明確に確認されたことから,観察されたドメインはCELであると考えられる。Dw/Dnも減少したことから,CEL含有率の低下に伴いドメインサイズは画一化されている。すなわち,CELはPMに希釈されることでその凝集が抑制されると考えられる。以上の結果は,PMで希釈することにより,限りなく単分子に近い状態でCELを観察できることを示唆している。
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