本研究課題では、天然のセルロース(D-セルロース)の鏡像異性体であるセルロース(非天然型セルロース:L-セルロース)の合成を検討した。昨年度、開環重合によるL-セルロース合成のためのモノマー(L-グルコースオルトエステル誘導体)の合成を検討し、L-グルコース誘導体が天然のD-グルコース誘導体と類似した化学反応性を有することを確認した。 最終年度である本年度には、開環重合用のL-グルコースオルトエステル誘導体を合成し、次いで、その誘導体の開環重合を行って、L-セルロース誘導体を得て、最後に、そのL-セルロース誘導体のL-セルロースへの変換を行うことに成功した。実際に、得られたL-セルロースは、天然のD-セルロースと同一のスペクトルを与えたが、光学的性質(旋光度)のみ符号が逆の値を与え、天然のD-セルロースの鏡像異性体であることが確認された。 研究期間(2年)内に、当初の研究目的であるL-セルロースの合成に成功した。これは、L型多糖の初めての合成例であり、これにより、セルロース/セルロース誘導体のキラル性(D/L異性体)に関する研究の端緒が新たに開かれたと考えており、今後、非天然型のL-セルロース/L-セルロース誘導体と天然型のD-セルロース/D-セルロース誘導体の性質(結晶構造解析、液晶性評価、光学分割能評価など)の比較研究への展開が大いに期待される。また、L-グルコース誘導体がD-グルコース誘導体と同様な化学反応性を有していたことから、L-セロオリゴ糖の合成も、比較的容易に行えることも示唆された。
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