研究課題/領域番号 |
16K14959
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
北岡 卓也 九州大学, 農学研究院, 教授 (90304766)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ナノセルロース / TEMPO酸化 / カルボキシ基 / 界面反応 / マイクロフロー / 触媒・化学プロセス / 反応・分離工学 / ナノ複合材料 |
研究実績の概要 |
天然由来のナノファイバーとして我が国の成長戦略にも特記された樹木ナノセルロースの新機能開拓に向け、MOF・触媒合成マトリックス応用および固体酸触媒応用を検討し、本年度は以下の成果を得た。 【ナノセルロースと金属-有機構造体(MOF)による分離膜の調製】ナノセルロースを基材とする酵素機能模倣膜の開発に向け、TEMPO酸化セルロースナノファイバー(TOCN)とナノ多孔体MOFとの複合膜を合成した。Znをイオン交換導入した後に2-メチルイミダゾールを自己組織化させることで、高結晶性のMOFであるZIF-8のその場合成に成功した。エチレンとイソブタンのガス分離に供したところ、α=1.3の分離能を発現した。膜厚を40μmまで厚くしても高いガス透過性を発現した。TOCNとエチレンジアミンの複合化により、ガス分離能が40%向上した。 【ナノセルロース界面が固体酸触媒として機能する新現象の発見】TOCN結晶界面には、ナノファイバー軸に沿って1 nmごとにカルボキシ基が配列しており、そのユニークなナノ構造の特別な機能に注目が集まっている。MOF合成研究の過程で、TOCN自身が極めて高活性な固体酸触媒として働き、アセタール(ジメトキシメチルベンゼン)の加水分解を加速する現象を発見した。同じ反応系pHにおける塩酸や酢酸、高分子電解質のカルボン酸と比べて著しく活性が高く、TOCN界面のナノ構造が誘導する新機能である。 【ペーパー構造体触媒をマイクロフロー反応場とする有機合成】紙状に成型した多孔質ファイバーネットワーク構造体を化学反応場として、炭素-炭素結合を形成する鈴木-宮浦クロスカップリング反応を行ったところ、高収率が得られた。特に、塩基ペーパーと触媒ペーパーを積層することで、ペレット充填型を遥かに凌駕する転化率が得られた。ペーパーの積層により形成されるマイクロフロー反応場の効果を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TOCNとMOFのハイブリッド合成と造膜には成功したがガス分離能が低く、次段の触媒反応に進めていない点は遅れている。その一方で、TOCN自体に固体酸触媒としての機能を見出した点は特筆に値する。ペーパーの多孔質構造がマイクロフロー反応場として機能する現象も興味深く、総合的に概ね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の当初目的であったナノセルロースとMOFの複合化と膜積層(ナノ~マイクロオーダー)による多段階反応については、MOFの種類や配合量など基礎的な要因精査で解決を目指す。その際、本年度に報告したペーパー積層(マイクロ~ミリオーダー)による多段階反応の知見を活かす。TOCN結晶界面の高密度カルボン酸の配列による固体酸触媒反応については、アセタール基質の選択的加水分解による不斉反応に展開することで、独自性の高い研究に発展させる。これにより、研究期間内で樹木ナノセルロースの構造が誘導する新機能の提案につなげる。
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