カラフトマスは北洋海域における重要な水産資源であり、我が国のサケ・マス漁業の発展を支えてきた。しかし、近年漁獲量は減少し、水産業や生態系に影響を及ぼすことが懸念されている。漁獲量の減少が続くなか、河川の産卵場の情報収集は急務となるが、産卵河川の多くは険しい山間地にも位置するため、現状はほとんど把握されていない。そこで本研究では、カラフトマスを食べるトビの食性に着目し、GPS追跡装置をトビ個体に装着して位置情報を収集し、トビの追跡情報がカラフトマスの産卵場の特定や産卵規模の把握に役立つことを明らかにした。具体的には、GPS測位情報を遠隔で取得できる携帯電話通信式の小型装置を野生のトビに装着し、7ヶ月間追跡を行った。装着場所であった繁殖地(北見市)からの最大到達距離は今回430kmであった。カラフトマスが遡上、産卵する8月から10月の期間では、トビは8月下旬まで知床半島を含む根釧地域で、それ以降を国後・択捉両島の河川近くで測位された。北海道東部の遡上河川の多くでは、河口近くにカラフトマスの捕獲施設が設置されており、上流の産卵場は少なく、これによりトビの餌場が少ない可能性が示唆された。さらに近年、北海道東部の遡上河川では9月以降の遡上数が減少しているとの報告もあり、トビは遡上数の多い河川を求めて国後・択捉島へ移動した可能性が高い。今回の追跡で、トビは流域面積の大きい河川ほど長時間滞在する傾向があり、遡上数や産卵場の増加による餌資源の増大でトビの滞在時間も長くなったと思われる。これは河川における現地観測の結果ともよい整合性を示した。つまり、トビの河川滞在時間は遡上数の指標となる可能性が高い。本研究では、カラフトマスの遡上状況を遠隔で把握する新たなモニター手法として、GPS追跡装置とトビを用いることの有効性を初めて明らかにした。
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