研究課題/領域番号 |
16K14962
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
山口 晴生 高知大学, 教育研究部自然科学系農学部門, 准教授 (10432816)
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研究分担者 |
西脇 永敏 高知工科大学, 環境理工学群, 教授 (30237763)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 海洋 / 物質循環 / リン酸 |
研究実績の概要 |
海洋生物生産はリンの挙動によって左右される。海洋研究では,リンとは完全酸化型の正リン酸のことを指すのが常識である。しかし最近,海水中から亜リン酸態化合物が検出され,それが気候変動・生物生産に及ぼす影響が指摘されている。そのため亜リン酸の生成プロセスに世界の注目が集まっているものの合理的な説明は果たされていない。本研究では,海水中に含まれる各種リンの定量的検出系を確立し,それを用いて未だ知られていないリン酸還元現象を明らかにすることに挑む。 本年度に実施した研究により,海水に含まれる各種リンの網羅・定量的検出に関わる諸条件について検討を重ねてきた。その結果,従来までのキレーター,強酸,強アルカリ処理法では成しえなかった,海水中の各種リン,具体的には正リン酸,亜リン酸,次亜リン酸,リン酸モノエステル,リン酸ジエステルならびにホスホネートの精確な検出が31P NMR(核磁気共鳴)により可能となった。本法は,NMRを阻害する各種常磁性元素が含まれる海水であっても,その阻害作用を大幅に軽減することができる点で優れており,今後のリン組成の解明において強力なツールの一つになると期待される。 ただし,NMR解析には時間を要するのが難点であり,リン酸還元現象を効率よく解析する上では律速になりかねない。この点については,亜リン酸を迅速定量可能な分光法により一部解決できつつある。すなわち,従来のモリブデンブルー法でも,ある種の有機溶媒を添加することで亜リン酸を定量することが可能となり,さらに高速分光測定器の採用により定量を高速化することができた。これらにより,リン酸還元を引き起こしうる微生物群を探索可能なシステムを構築するまでに至った。これらの成果の一部は,学会等で発表しており,今後の実績の基盤として位置付けられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度においては,海洋環境に含まれる各種リン酸の定量的検出系の確立,ならびにそれを用いたリン酸の分布・組成の解明を目指し研究を進めてきた。現在までに,核磁気共鳴(NMR)解析を阻害する常磁性元素(鉄・コバルトなど)の新規除去法を開発し,さらに定量に不可欠となる内部標準リン化合物を選定することができた。これらにより,海水に含まれる各種リン,具体的には正リン酸,亜リン酸,次亜リン酸,リン酸モノエステル,リン酸ジエステルならびにホスホネートの定量的検出が可能となり,目的の達成に大きく前進した。 この検出系により,微生物によるリン利用の詳細が解析可能となった。すなわち,多種多様なリン化合物が存在する海水試料において,試験する微生物が優先利用するリン化合物,それに伴って変動する各化合物の化学形態・濃度を捉えることが可能である。現在まで,当研究室で保存・管理している微生物による一般的な酸化型リンについての利用能については,本検出系で解析することが可能なことを実証できた。還元態リンについても試験している段階にある。また,迅速に亜リン酸を検出可能な系も確立しつつある。この系の確立においては,検出に不可欠な各種有機溶媒について試験し,もっとも適した溶媒と試料の処理条件を見出すことができた。以上より,海水中に含まれる各種リン化合物の精確な解析システムが整いつつある。 秋季から冬季にかけて高知県浦ノ内湾底層における各種リンの分布・組成を解析し,リン酸が豊富に含まれる定点を選定するに至った。ただし,酸素が豊富に含まれているせいか,還元態リンの検出には至っていない。予備的な試験ではあるものの,酸化型・還元態リンの変動に関わり得る微生物が培養できつつあり,次年度に用いる微生物サンプルは確保されていることから,おおむね当初の計画通り研究は進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
海洋環境に含まれる各種リン酸の分布・組成の解明とともに,正リン酸の還元ポテンシャルの評価を重点的に実施する。 1)春季~冬季の本調査:前年度選定した浦ノ内湾定点において,底層の酸素が欠乏しやすい高水温期を中心に,海水・泥試料を月一回の頻度で採取する。試料の一部を冷蔵保存(予備)したうえ,先に確立した定量的検出系により,当該試料に含まれる各種リンの分布・組成を明らかにする。さらに,並行して測定した酸素濃度と各種リン酸の組成・変動との関連を解析する。 2)正リン酸還元ポテンシャルの評価:採取した試料に有機物(グルコース)と正リン酸を添加し,酸素が充足あるいは欠乏する条件下で培養する。経時的に採取した試料中の酸素濃度と正リン酸・還元態リンを定量する。これにより,正リン酸が減少し,還元態リンが発生・増大するかを酸素条件と関連付けて検証する。ここでは,リン酸が電子受容体にならざるを得ない培養条件を構築し,目的とする結果が合理的に得られるように工夫する。ここで目的とする結果が認められなければ,有機物の他に,電子の供与体となり得る(推定被酸化物)鉄・マンガンなどの物質を添加し,さらに厳密に試行を繰り返す。 3)正リン酸還元の動力学:正リン酸還元が認められれば,添加する正リン酸濃度を段階的に変えて培養し,その濃度ならびに得られる還元態リン濃度との動力学的関係を求める。これにより,正リン酸の添加濃度が0の時の正リン酸還元能を評価する。 結果が得られ次第,作図・作表を進め,課題達成時にはすみやかに英論文にまとめる。当該分野において上位の国際科学雑誌に投稿することを目指す。同時に,国際学会を含む学会発表も積極的にこなす。
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