ニホンウナギ仔魚期における嗅覚受容細胞の興奮検出系の検討として前年度までにc-fos遺伝子およびタンパクの検出方法を確立したが、単一のマーカーのみでは偽陽性/偽陰性反応が見られる可能性があり、複数の検出系の併用は重要であると考えられた。そこでリン酸化ERKの検出による嗅上皮における嗅覚受容反応の検討手法について構築を行ない、当該検出系もニホンウナギ仔魚で利用可能であることが示唆された。これらを用いて嗅上皮の応答細胞の検出を行なった結果、ニホンウナギ仔魚嗅覚は低分子アミノ酸類に対して比較的低い感受性を示すことが示唆された。また、ニホンウナギ仔魚抽出物を含む環境水に曝露したところ、嗅上皮に応答したとみられる細胞が確認され、嗅覚により同種を認識するシステムの存在が考えられた。加えてこれまでニホンウナギ仔魚用飼料原料として重要な成分として用いられているアブラツノザメ卵抽出物について検討を行なった結果、嗅上皮に反応を示した細胞が見られ、何らかの嗜好性応答をサメ卵抽出物が誘起する可能性が示唆された。しかし、嗅上皮での反応細胞の偏在は現在までのところ確認されず、嗅上皮反応とその受容情報の意味付けとの関連については今後更なる検討を要する。孵化後嗅覚餌付け手法についての検討をサメ卵抽出物を用いて行なったところ、生物濾過を介さない閉鎖飼育システム条件では仔魚に付着している微生物に起因すると考えられる水質悪化が発生し、これは試料添加によりさらに顕著となり、飼育試験中の生残率が著しく低下した。抗生物質の添加により生残率は改善したが、抗生物質自体が忌避反応を誘発することが示唆された。本手法を詳細に検討するためには試料中の活性物質についてあらかじめ単離・精製し、添加量を極力抑える必要があると考えられる。
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