研究課題/領域番号 |
16K14969
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
遠藤 英明 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (50242326)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | バイオセンサ / 魚類 / ストレス / ユーストレス / ディストレス / バイオセンシング / グルコース |
研究実績の概要 |
本研究では,研究代表者が製作した「魚類のためのストレス応答測定用バイオセンサ」を利用して,魚にとって有益なストレス(ユーストレス[Eustress]))と有害なストレス(ディストレス[Distress])の関連性を解明することを目的とする. 今年度は,飼育水の水位変動によるストレス応答,及び塩化ナトリウム含有飼育水が魚類のストレス回復に及ぼす影響を調べた.また,次年度の計画にあるストレス因子としての光の影響を検討するため, LEDを用いた新しい照射システムの設計・製作を行った.まず,前年度に作製されたグルコースバイオセンサを,試験魚となるティラピアに装着し,飼育水の水位変動によるストレス応答モニタリングを行った.その結果,飼育水位の低下が供試魚にストレスとなり,魚体高と同じ高さまで水位が低下すると,魚に対して大きなストレスとなることが明らかとなった. 次に,種々の塩化ナトリウム濃度(0, 0.1, 0.5 %)における飼育水中で3日間飼育した魚にバイオセンサを装着し,ストレスを負荷(10分間空気中に曝露し)した後,水槽に戻した際のストレス回復のモニタリングを行った.その結果,魚体を空気中へ曝露させることによって血糖値の大幅な上昇が確認されたが,その後の回復については,各塩化ナトリウム濃度において優位な差は認められなかった.一方,光の照射条件が統一できる新たな照射システムの製作を行ったところ,LED照射面に高い光透過率と光学的歪の少ない特性をもつガラス素材を使用することにより,魚体への照射を効率的に行うことができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,ストレス応答測定用バイオセンサを用いることにより「魚の真のストレス応答」を測定・解析し,魚類の行動と生理との間に新たな相関関係を見出し,「魚類にとってのユーストレス/ディストレスの解明」を探索することを目標としている.本年度は,この目的を実現するために,各種ストレス因子の検討および新しい光照射システムの設計・製作を行った.各種ストレス因子の検討については,水位の変化が魚のストレッサーとして有効であることがわかった.また,飼育水の塩化ナトリウム濃度については,いずれの濃度においてもストレスの回復に顕著な差は認めらず,ストレッサーとしての塩化ナトリウムの濃度変化は,ユーストレスにもディストレスにもあてはまらないことを結論づけた.次に,次年度に向けてのLEDを光源とした新しい光照射システムの設計および製作を行ったところ,今後の実験計画に十分に対応できるシステムを構築することができた. さらに,本研究成果の一部を2017年9月に東京都で開催された日本水産学会創立85周年記念国際シンポジウム,International Symposium “Fisheries Science for Future Generations”において発表したところ,Best Student Presentation Awardsを受賞することができた.[発表題目:Exploration of fish eustress using wireless biosensor system (H. Takahashi, M. Nakayama, H. Wu, T. Arimoto, T. Nakano, H. Endo)] 以上の理由から,本研究の進捗状況は計画通り順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,魚類のストレス応答に及ぼす光照射の影響に着目して,それらストレッサーの効果について検討する.まず,バイオセンサを試験魚(ティラピア)の眼球外膜間質液(EISF)へ挿入し,無線通信型ポテンシオスタットから+650 mVの電圧を印加して, 得られた出力電流値から供試魚の血中グルコース濃度を測定し, これにより魚のストレス応答モニタリングを行う.そしていくつかの飼育試験区を設け,各波長の光(LEDによる一定波長)が照射された水槽中で血中グルコース濃度が平常値になるまで馴致する.この時,魚は光の波長変化により一時的にストレス応答を示すが,時間と共に馴致し,やがて元の状態に戻ると予想される.次にこれらの魚に,致死には至らないが生死を分けるような強い刺激(ここではユーストレス/ディストレスとは別の意味での強いストレス刺激,例えば空気中曝露)を負荷し,その後のストレス応答の回復履歴を経時的に解析する.これにより,ストレス応答のレベルや回復履歴を対照区と比較し,そのレベルがコントロールより高い場合や回復が遅い場合のストレッサーはディストレスとなり,レベルが低い場合や回復が早い場合のストレッサーはユーストレスとなるという仮説を立てることで,両者の解明への糸口が得られるものと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:平成29年度に使用予定であった実験に関わる消耗品類,設備品の一部を,既存の現有品を用いることにより研究が遂行でき,予定よりもやや少ない支出になったため. 使用計画:引き続き新たなセンサシステムを製作する予定があるため,それに必要な電子回路部品類,酵素等の生化学試薬類,ガラス器具類等を購入する経費として使用する.また,より測定に適した光照射システムの改良等についての部品類の購入にも使用する.旅費については,ある程度の研究成果が得られたので連携研究者と研究集会を仙台で開催する予定があるため,これに充てる.
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