本年度は,これまでに製作したストレス応答測定用バイオセンサシステム,LEDより構成される新しい照射システム等を用いて,魚にとって有益なストレス(ユーストレス)と有害なストレス(ディストレス)の関連性の解明に取り組んだ. まず,供試魚(ナイルティラピア)を異なった色(波長)の光条件下で飼育し,これら供試魚におけるストレスからの回復履歴を観察した.すなわち,供試魚に各色(白,青,赤,緑)の波長の光をLEDライトによって3日間照射(12時間/日)して環境に馴致させた後,バイオセンサによるモニタリングを開始し,途中で魚体を空気中に暴露することで強いストレスを負荷し,その後のストレス応答の回復履歴を経時的に解析した.その結果,緑色の波長が他の波長に比べてストレスからの回復に効果がある傾向が認められた. 次に通常の波長(白色)の下で,水槽内面壁の色を異なった条件に設定し,これら水槽内で供試魚を飼育し,それらのストレスからの回復履歴を観察した.すなわち,各色(青,赤,緑)の条件下でナイルティラピアを2日間飼育し,環境に馴致させた後,アンモニアが含まれる飼育水中に魚を移動して強いストレスを負荷し,再び元の水槽内に戻してストレス応答の回復履歴を観察した.その結果,赤色の内面壁で飼育した魚のストレスからの回復が,他の条件下で飼育された魚に比べて早い傾向が認められた. 以上の結果から,魚の飼育環境下における色の変化が,魚にとってのユーストレスに結びつく可能性が示唆されたが,各個体における応答差も確認された.したがって,今後は同様の実験を繰り返し行い,蓄積された測定データを統計学的に処理して考察する必要があると考えている.
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