研究課題/領域番号 |
16K14973
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
冲中 泰 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (80363034)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 魚類ノダウイルス / ウイルスRNA間相互作用 / キメラウイルス / 至適増殖温度 |
研究実績の概要 |
分節ゲノムをもつRNAウイルスは、その増殖過程でウイルスRNA間のコミュニケーション(相互作用)を図ることが必要である。ウイルスRNA間相互作用は植物やほ乳類のウイルスでは徐々に解明されつつあるが、魚類ウイルスにおいては全く知見が無い。そこで、本研究では魚類ウイルスのモデルである魚類ノダウイルス(RNA1およびRNA2の2つの分節ゲノムを持つ)を用いて、ウイルスRNA間相互作用の詳細な役割およびそれに関わるRNA領域を解明し、ウイルスRNA間相互作用を阻害する低分子オリゴ核酸(抗ウイルス剤)の開発へ向けた情報提供を行う。 遺伝的に近縁であるが至適増殖温度が大きく異なる2種の魚類ノダウイルス株(SGW:至適増殖温度は30℃前後、WSB:30℃での増殖レベルは25℃におけるそれのおよそ1/1000)を材料に用いた予備実験の結果、本ウイルスではRNA1-RNA2間の物理的相互作用がウイルス増殖に必須であることが確認された。そこで、ウイルスRNA間相互作用に関与するRNA部位を特定するため、SGWおよびWSB株間でRNA配列の一部を交換したキメラウイルスを作製し、これらウイルスの至適増殖温度の違いから相互作用部位を絞り込んだ。キメラウイルスの作製では、いずれか片方のウイルスRNAを操作することでRNA1-RNA2間相互作用に関与する領域を発見しやすくした。 RNA1がキメラでRNA2が野生型の組換えウイルスを6種作製し、その至適増殖温度を検討した結果、RNA1の5’末端から375塩基に至るわずかな領域がRNA1-RNA2間相互作用に関わる部位であることが判明した。他方、RNA1が野生型でRNA2がキメラの組換えウイルスを8種作製し、同様な検討をした結果、RNA2の611-1096塩基の領域がRNA1-RNA2間相互作用に関わる部位であることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
キメラウイルスを用いたRNA1-RNA2間の相互作用領域の同定の研究では、早期に想定以上の結果が得られた。すなわち、RNA1では375塩基、RNA2では486塩基というごく小さな領域が、ウイルスRNA間相互作用に必要十分であることが判明した。 しかしながら、その次の段階であるRNA1-RNA2間の相互作用に重要な塩基の特定の研究は平成28年度内に終えることが出来なかった。その理由として、重要な塩基の特定の為に各種塩基置換ウイルスを作製し、それらウイルスの増殖レベルを調べた結果、データに再現性が得られず、追加実験が必要だからである。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、引き続きRNA1-RNA2間の相互作用に重要な塩基の特定の研究を行う。その際、データの再現性を得るため、塩基置換ウイルスサンプルの力価やウイルスの培養条件の再確認を行った後、短期集中で反復実験を行う。その後、当初予定のRNA1-RNA2間の相互作用の低下によりウイルス増殖過程のどこが阻害されるかの研究に入る。
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次年度使用額が生じた理由 |
キメラウイルスを用いたRNA1-RNA2間の相互作用領域の同定の研究が当初予定よりかなり早期に決着し、残予算が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
研究の遅れを取り戻すため、遺伝子のクローニングや塩基配列の解読といった単純な作業は外注としたい。残予算はそのために使用する予定である。
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