陸上バイオマスや淡水に依存しないバイオ燃料の生産に向け,海洋バイオマスの燃料変換技術の基盤強化が必要である。多彩な糖質で構成される海洋バイオマスの効率的利用に適応可能な複数基質の糖化と発酵を統合(一貫バイオプロセス(CBP)化)した生物触媒の開発は理想的であるため,本課題では,海洋バイオマス(大型海藻や微細藻)を構成する糖質であるグルカン・ガラクタン・ポリウロン酸・糖アルコールを同時に分解・利用・物質変換する「複数の基質利用系を有するCBP生物触媒」の開発を目的にした。本年度は,世界で最も速く増殖し,グルコース,ガラクトース,マンニトールを基質として発酵を行うことができるため,mCBP化のモデル海洋細菌化が可能なVibrio natriegensに焦点を絞り研究を進めた。本菌に,Zymomonas mobilis由来のピルビン酸脱炭酸酵素(pdc)とアルコール脱水素酵素II(adhII)遺伝子カセットであるPETオペロンを組み込むことに成功した。この組換え株を用いて海藻バイオマスの構成単糖を用いたエタノール産生ダイナミクスを調べた結果,①D-ガラクトースを基質とした場合においても9g/Lを超えるエタノール生成が可能な条件を見出した,②D-グルコース存在時に強いカタボライト抑制が観察されたが,共存するグルコースの添加量が低い場合やグルコースの添加時期を遅らせることで,糖共存時にガラクトースからのエタノール生成も可能である条件を見出した。V. natriegenesは相同組換えなどの様々な遺伝子組換え技術が多数報告されるようになっているため,mCBP化の最適条件設定に資する優れた海洋微生物触媒になる。
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