研究実績の概要 |
本年度は,トポイソメラーゼⅠやDNAとの相互作用を行っておらず,生理活性への影響が少ないラメラリン骨格の1位に,エステル結合型のリンカーを介してTPP部位を導入することを検討した。8位と20位の水酸基への結合を防ぐため,これらをtert-ブチルジメチルシリル(TBS)基で保護した1-ヒドロキシメチルラメラリン(Lam-CH2OH)を合成し,5-(トリフェニルホスホニウム吉草酸とのエステル化を行った。しかしながら,目的物(TPP-Lam-OTBS)は得られたものの,8位あるいは20位の水酸基とのエステル体が副生し分離不可能であった。そこで,より酸性条件下で安定なトリイソプロピルシリル(TIPS)基に保護基を変更したところ,1位のみのエステル結合体(TPP-Lam-OTIPS)が得られ,さらに脱保護により,目的のエステル結合型TPPラメラリン(TPP-Lam-OH)の合成に成功した。合成したTPP-Lam-OH ,その水酸基保護体2種TPP-Lam-OTBS,TPP-Lam-OTIPS,及びTPP部位を持たないLam-CH2OHの,子宮頸癌由来のHeLa細胞及びアフリカミドリザルの腎臓上皮細胞由来のVero細胞に対する細胞毒性を調べた。水酸基無保護のTPP-Lam-OHは, HeLa細胞(IC50 0.49 microM),Vero細胞(IC50 0.50 microM)共に同程度の高毒性を示し,Lam-CH2OHに比べ約3倍活性が増大した。一方,シリルエーテル保護体TPP-Lam-OTBS,及びTPP-Lam-OTIPSは,HeLa細胞に対しては活性を保持したが(IC50 2.80, 及び2.63 microM),Vero細胞においてはマイクロモーラーレベルでは無毒であった。期間全体を通して,TPP部位を導入することによる活性増大効果,及び水酸基のシリルエーテル化によるがん細胞選択性の増大が確認された。
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