本研究は,農作業事故の発生確率および発生実態を明らかにすることによって,農業生産の特質を踏まえた公的補償制度の制度設計に向けての基礎的知見を提供することを目的としている.農作業労働の危険性に関する時系列推移,他産業との比較を社会科学的な視点からの行うという分析事例はなく,本研究の特色となっている.また,農業の労働災害リスクの軽減策のための基礎的知見の提供を目指す本研究は,十分な社会的意義を有していると考える. 本年度は、農業労働災害への対応状況、労災特別加入の状況について、2つの農業法人に対して現地実態調査を行った。その結果、雇用者の労災加入は進んでいるものの、法人構成員の特別加入についての認知度は低く、たとえ知っていても費用や手間がかかるなどの理由で加入をためらっている状況などが明らかになった。また、中山間地域に立地する2農協においてヒヤリング調査を実施し、傾斜地における作業の危険性、オペレーターの高齢化、作業受託の広域化に伴う移動距離の増大等により、農業機械による農作業リスクが高まっている状況を確認した. 昨年度に引き続き、農作業事故の労働時間当たりの発生確率について、他産業との比較分析を中心に行うとともに、農業労働に適した労災保険が備えるべき条件について検討を行った. 農作業リスクが見かけ以上に高いという事実を一般に啓蒙するため、本研究で得られた農作業事故の発生確率に関するデータを用いて「農作業リスクの実態」という論説を執筆し、雑誌「農業金融」に掲載した. 本年度は最終年度にあたるため、研究期間中に得られた知見を取りまとめ、学会誌、農業関連雑誌等に公表するための準備を行った.
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