研究課題/領域番号 |
16K14993
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊藤 順一 京都大学, 農学研究科, 教授 (80356302)
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研究分担者 |
北野 慎一 京都大学, 農学研究科, 助教 (20434839)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 農業経済学 / 計量経済学 / 土地利用 / 集落営農 / 取引費用 |
研究実績の概要 |
農地の借り手が少数派となるなかで,日本の農地はどのように利用され,またなぜ利用されなくなってきたのであろうか。この問題は,農地の出し手と受け手の多寡・存在態様に規定されるところが大きい。そこで本研究では,農地の貸借市場に登場する複数の主体に注目し,その役割を明らかにした。 全国統計をみると,農地流動化率と耕作放棄地率は,1990~2010年の間上昇しているが,都府県の横断面では負の相関が現れ,その度合いが年々高まっている。もちろんこれは単なる相関であって,因果関係を示唆するものではない。そこで分析では,両者の関係を構造方程式として捉えた上で,その誘導型を推計し,過去20年間における農地利用の動態的な側面に実証的な光を当てた。 流動化率の上昇に貢献しているのは,農地の供給サイドでは土地持ち非農家の増加,需要サイドでは農家以外の農業事業体の躍進であることが判明した。一方,耕作放棄地率が上昇した原因は土地持ち非農家の増加であり,その抑制に最大の貢献をなしたのは,農家以外の農業事業体の農地借入であった。要するに,借り手市場化が進む日本の農地市場において,農地利用の動態を規定してきたのは農家ではなく非農家の存在であった。 農家以外の事業体による旺盛な借地需要は,日本農業にとっては久々の光明であるが,その実態が集落営農による借地の寄せ集めや家族経営の単なる「法人成り」の結果であれば,その評価には一定の留保が必要となる。 本研究の実証分析は,農地取引の仲介組織(農地保有合理化法人。現農地中間管理機構)が,農地の流動化に寄与していることを示唆している。これは同法人が利用権設定に関わる取引費用を節減していることを示唆している。他方,仲介組織には耕作放棄地の発生を抑制する役割も期待されているが,その効果は統計的には有意なものではなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の学術的な特徴は,農地の貸借市場に登場する複数の主体に注目し,農地利用の動態的な側面に実証的な光を当てることにある。先行研究によれば,近年,農地の流動化に最も貢献しているのは,農家ではなく農家以外の事業体(とりわけ集落営農組織)である。また,土地持ち非農家は出し手として,農地の流動化に寄与しているが,彼らの存在は耕作放棄地の発生を助長する要因にもなっている。 一方,農地取引の仲介組織(現在の農地中間管理機構)が流動化を促進するというのは通念であるけれども,その役割については,必ずしもその評価が定まっていない。とくに貸借を仲介する組織が,耕作放棄地の発生抑止に果たす役割について,学術研究の蓄積は皆無に近いといってよい。 本研究における平成28年度の目的は,公表統計(「農林業センサス」等)を利用して,農地流動化と耕作放棄地の発生に関する規定要因を明らかにすることであった。研究成果が海外の学術雑誌に掲載されたことで,本研究はおおむね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,農地中間管理機構の役割が十分に発揮されるためには,すくなくとも,(1)機構が権利移転の申し出がある前に,農地の取引に積極的に関与すること。(2)土地改良や圃場整備に対する投資を拡充すること,この2点が必要であるとの仮説を提示している。今後の推進方向としては,実態調査から得られたデータを用いて,これらの仮説を検証する。また,本年度は中国の農地利用についての政策分析を行うため,専門家との共同研究を実施する。 平成29年度は,とくに組織法人経営の農地利用の実態を,現地での調査や聞き取りによって明らかにする。調査地としては兵庫県,熊本県などを予定している。また中国の共同研究者を招聘し,ワークショップを開催する。 平成29年度末までに研究成果をとりまとめ,ホームページで公開するとともに,国内外の学術雑誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の目的には,農地利用に関する中国との比較研究も含まれる。代表者が行った予備的な調査によれば,中国における農地貸借市場の発展は,農業労働力の農外への流出によって,その端緒が開かれ,農地制度改革,とりわけ請負経営権の強化がそれを後押ししてきた。中国の共同研究者と行った予備的な分析の結果は,土地株式合作社が農地の流動化とその集積および農家以外の経営体の農業参入に,多大な貢献をなしていることを示唆している。合作社が貸借を仲介することで取引費用が節減され,流動化が急速に進行したのである。 平成28年度に,中国の共同研究者を招聘し,ワークショップを開催する予定であったが,都合により延期されたため,次年度使用額が発止した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年8月に,共同研究者である江蘇省社会科学院農村発展研究所の包宗順所長と他1名を日本に招聘する予定である。
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