研究課題/領域番号 |
16K14995
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
岩本 博幸 東京農業大学, 国際食料情報学部, 准教授 (90377127)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 環境倫理 / 消費者行動 |
研究実績の概要 |
平成28年度は,古典的倫理学説を踏まえつつ,環境倫理学説および関連する応用倫理学説,社会心理学説に基づいた論点の整理を試み,分析対象とする環境倫理学における論点,分析対象と分析仮説に即した分析モデルの検討を試みた. 過去に実施された調査データを本研究課題に即して再度データの分析を試みた結果,環境倫理が影響を与えると考えられる食品ロスを利活用して生産された豚肉に対する評価には個人差が大きく,家畜福祉に対する評価よりもばらつきが大きいことが示され,環境倫理の多様性の存在が示唆される結果を得た. 上記の知見をふまえ,分析モデルの検討にあたっては,具体的に以下の4点に留意して実施した.第1に,補償型選択及び非補償型選択行動に関するこれまでの研究から得られた知見を考慮することである. 第2に,消費者の多様な社会経済属性を考慮することである.第3に,倫理的側面が消費者行動に与える影響を定量的に計測できること.第4に,社会心理学における倫理と行動に関する分析モデルを参照し,明示的に分析モデルに取り入れることである. 以上から,倫理的な価値基準との不整合により非補償型の選択行動をとる消費者が存在する可能性を考慮して,分析手法とする選択モデルでは,個々人の選択基準を定量化できるRandom Parameter Modelを適用することとした.またこのモデルにより,多様な社会経済属性を明示的に取り入れ,倫理的側面が選択行動にどの程度の確率で影響を与えうるのかを定量的にとらえることができる.また,社会心理学における倫理と行動のモデルとして広瀬(1994)による環境配慮行動の規定因モデルを採用し,これを実証分析に適用した共分散構造モデルを同時に推定することが妥当であるとの知見を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究進捗は概ね計画通りに進行していると考える.具体的には環境倫理学説を踏まえたモデルの検討,過去の研究データの本研究課題に即した新しい視点による再精査から得た知見をもとに分析モデルを構築する予備的な分析が行われたことによる. しかしながら,以下の2点において当初の研究計画からは十分に実施できなかった課題があった.第1に欧米における倫理学説と消費行動に関する研究の本分析モデルへの反映,第2にプレテストの実施である. 第1の欧米における倫理学説と消費行動に関する研究の本分析モデルへの反映については,既存研究の整理自体は完了しているため,平成29年度の本調査実施までには反映させることが可能である.第2のプレテストの実施については,既存研究の整理ならびに過去データの精査から考慮すべき因子が当初の予想よりも膨大になることが判明したことから,本調査での調査サンプル数を倍近くに増やすことが必要となった.そこで既存研究の分析と過去データの精査をもってプレテストに代替し,リソースを本調査に集中させることとした.
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今後の研究の推進方策 |
1.分析課題:平成29年度の分析課題は,本調査の実施による①選択実験による消費者の環境倫理的側面が食品購買行動に与える影響を分析すること,②社会心理学モデルによる環境倫理と環境行動に関する構造モデルの構築を試みることにある. 2.調査概要と手順:前年度に検討した倫理学説および分析の枠組みをもとに,選択実験による本調査を実施し,環境倫理的側面が消費者の選択行動に与える影響について分析する.具体的には,環境倫理学説の主要な論点である,世代間平衡問題,南北問題,動物福祉,生態系中心主義にかかわる属性を分析対象とし,複数の評価対象財を設定して同一の被験者を対象とした繰り返し選択実験を実施する.同一の被験者に異なる倫理的課題を提示することにより,共通する倫理的価値基準あるいは差異を明示的にとらえる分析が可能となる.また,選択実験データによる分析結果にもとづき被験者を分類し,社会心理学モデルにより意識構造の差異を明らかにすることを企図している.分析に用いるデータは,インターネットリサーチを利用したアンケート調査により収集する. 3.研究総括:平成28~29年度の分析から得られた知見をもとに,農畜産物および食品の消費行動における消費者の多様な選択ルールの背景にある環境倫理的な価値基準が購買行動に与える影響について検討するとともに,消費者への食品情報提供のあり方に関する政策的含意を得ることとする.
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次年度使用額が生じた理由 |
既存研究の分析および分析モデルの検討から本調査に必要となる調査サンプル数を大幅に増やす必要が生じたため,本年度に計画していたプレテストを既存研究の分析で代替させ,プレテストを中止したため.なお,インターネットリサーチの機能として簡便なスクリーニングも実施可能であることから本調査への影響は最小限に抑えることができたと考える.
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度に実施予定の本調査において,調査対象サンプルを予定から倍増して実施するために予算を使用する.
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