研究実績の概要 |
本研究の目的は,農畜産物および食品の消費行動における消費者の多様な選択ルールの背景にある倫理的な価値基準,その中でも環境倫理にかかわる価値基準が購買行動に与える影響について,環境倫理学,社会心理学などの知見を明示的に取り入れた定量的な分析枠組みの構築を実証分析を通じて試み,消費者への食品情報提供の在り方に示唆を与えることにあった. 2016年度に環境倫理学,社会心理学等の分野における国内外の研究成果にもとづいて分析のフレームワークとなるモデルについて検討を試みた。環境倫理学において論点とされることが多い「世代間衡平問題」「南北開発問題」「自然保護問題」に焦点を当て,各論点における消費者の意識・態度が消費行動に与える影響をランダムパラメータ・ロジットモデルによる選択確率モデルとして検討した。 2017年度に前年度で検討した分析モデルについて,ネットリサーチによる消費者調査データを適用した分析を試みた。分析対象財をブロッコリーとし,有機農産物認証表示の有無と価格が異なる2種の選択肢に「どれも購入しない」との選択肢を加えた質問を被験者に提示する選択実験(Choice Experiment)を実施してデータを収集した。被験者は東京都,神奈川県,千葉県,埼玉県から抽出した3,054人である。 ランダムパラメータ・ロジットモデルの分析の結果,世代間平衡問題において「将来世代は生まれたときの環境が当たり前なのだから,我々が彼らの環境に責任を持つ必要はない」という受益者不在論について反対する被験者,南北開発問題について,「環境破壊的な経済活動は,補償や賠償が少なくて済む途上国で行われるべきだ」という費用最小化問題について反対する被験者ほど,有機認証表示に対して肯定的な評価を与えていることが明らかとなった。
|