研究課題/領域番号 |
16K15007
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤原 正幸 京都大学, 農学研究科, 教授 (40253322)
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研究分担者 |
宇波 耕一 京都大学, 農学研究科, 准教授 (10283649)
竹内 潤一郎 京都大学, 農学研究科, 助教 (20362428)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | リン / 水田 / 森林 / ため池 / 水質浄化 / 汚濁負荷量 |
研究実績の概要 |
農村地域では,出水時や灌漑期における山林や農地からの汚濁負荷流出が河川水質の悪化と貯水池富栄養化の主たる原因であることが推測されている.しかしながら,小流域からの汚濁負荷特性に関する直接的な調査,実測はあまりなされていない.そこで本年度は,昨年度のモデル地区に山林域を加えて,汚濁負荷流出特性の調査を行った. モデル地区は兵庫県の千苅貯水池流域(水田と森林)と滋賀県甲賀市に位置するため池流域の2箇所に設定した.千苅貯水池流域では流域を形成する複数河川全体と上流域にある支流沿いの森林域,そして河川沿いにある地区の水田群の3つのスケールを対象として設定した.複数河川全体の調査は季節ごとに数百メートル間隔で水質測定をした.森林域では床固工に水位計を設置し,また,水田群では排水路に量水堰を設置して排水流量を測定し,両地点とも1~2週間間隔で採水して水質測定をすることで,貯水池の制限栄養塩と考えられているリンの濃度変化と負荷量を推定した.また,溜池では自動採水器を設置して,降雨時及びに平常時の水質変化を測定した. 複数河川全体の水質分布については,その河川流域の土地利用による違いと,季節的な違いが明らかになってきた.また,集落排水施設が整備されている流域と合併浄化槽が設置されている流域とで,流域のリン酸濃度に有意な差があることが分かった.また,水田群での調査では,排出されるリンのほとんどが溶存態であることが分かった.そして,負荷量は雨の日や排水量の多い数日間で全負荷量の半分ほどの量が排出されていることが分かった.森林域での調査では,台風時に総負荷量の半分が流出している結果となった.ため池流域では,ため池に流入する水質と流出する水質の違いから,ため池は水質浄化機能を有していることが分かり,この機構をうまく活用すれば,下流域の汚濁負荷削減方策に活用できる示唆が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度実施した複数河川流域,水田群,ため池流域の3つの対象地区に加え,今年度は森林地区を設定し,データの蓄積を進めることができたため,上記のような判断をした. 複数河川流域では,灌漑期では一ヶ月に1回,非灌漑期では二ヶ月に1回程度で合計10回の全域的な調査を行った.その結果,各河川流域の水質変動は土地利用割合と農業活動(特に水田農業における灌漑期と非灌漑期)に起因して時空間的に変化することが明らかとなった.また,集落排水施設が整備されている流域と合併処理浄化槽が設置されている流域とで,流域のリン酸濃度に有意な差があることも示された. 水田群に関しては,灌漑期には1週間に1回程度の調査ができ,一昨年との調査と合わせて,夏場に溶存態リン濃度が高くなり,その後急速に濃度が低くなる傾向があることが分かった.一方,非灌漑期は降雨時にしか排水路に排水は流れないので,降雨時に調査をすることになるが,2回の降雨時に調査ができただけであり,さらなるデータの蓄積が望まれる. 今年度から新たに設定した森林域については,水位計で10分間隔のデータの測定をつづけるとともに,並行して24回の流量・水質調査を実施した.平水時はほぼ100%が溶存態リンとして流出しているが,降雨のある日,または降雨のあった次の日は粒状態リンの占める割合が増え,全リンの約10~30%が粒状態リンとなる.特に,今年度は台風21号が対象流域を直撃し,その時の流量は観測期間全体の約15%に過ぎないが,全リン負荷量は約5割を占めていた.つまり,全リン負荷量は1年のうちの数日で年間負荷量の半分程度が流出することが考えられる.しかしながら,降雨時の洪水データは平水時のデータに比べ,圧倒的に少ないので,さらなる蓄積が必要と考える.従って今年度も同様の調査を継続する. ため池流域に関しては,今年度は降雨時及び長期間のデータを集積することができた.
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は2017年度と同様の調査を継続すると共に,とくに降雨時におけるデータの集積に努める.つまり,森林流域においては,設置した水位計により10分間隔のデータを集積し,適切な間隔で流量観測及び水質調査を行う.特に,強雨時に合わせて調査を実施し,流量と水質濃度の関係について精度を上げる.水田については,農作業と水質変動の関係を明らかにするため,農作業に応じた調査を試みる.特に,代かき,田植え,中干,追肥時期における水質変化を明らかにする.また,非灌漑期にも灌漑期と同等のリンの流出があると見積もられているが,水田からの流出が生じるのは非灌漑期では降雨時のみであるため,降雨時のデータの集積に努める. 現在までの調査から,水田群から多くのリンが流出していることが分かったので,リンの土壌への吸着状況を明らかにする目的で土壌調査を新たに追加する.本目的のために,研究分担者を追加した.各流域の上流・中流・下流域の水田から,代かき前,通常灌漑期,中干後,作付後の土壌を採取し,土壌のリンに対する飽和状況を分析する. 今年度は最終年であるので,3年間のデータから貯水池の集水域を対象とした汚濁負荷削減対策を検討し,そこで得られる情報を基に,環境直接支払いと水質インデックス保険を組み合わせた制度の設計を目指す.あわせて,10月に茨城県で開催される第17回世界湖沼会議において研究成果の一部を発表する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
非灌漑期での調査において,降雨日と調査日をうまく合わせることができず,調査が予定より少ない回数となってしまったために,旅費で使用する分が少なくなったことと,次年度に新たに始める土壌分析のために,熊本大学に滞在して分析をする必要があり,当初は予定していなかったその分の旅費を次年度に残すためである.
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