研究課題/領域番号 |
16K15009
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
平松 和昭 九州大学, 農学研究院, 教授 (10199094)
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研究分担者 |
原田 昌佳 九州大学, 農学研究院, 准教授 (80325000)
田畑 俊範 九州大学, 農学研究院, 助教 (80764985)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 閉鎖性水域 / 有機汚濁 / 富栄養化 / 無酸素化解消 / 藻類増殖抑制 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,水面冷却と冷水塊沈降を利用した水質改善技術の可能性を実験・解析的に検証することである.本年度では,冷水塊沈降による無酸素化の解消効果を実水域での水質観測の観点から検討した.また,水面冷却による藻類増殖の抑制効果を検討するために,室内実験と現地観測を実施した, まず,有機汚濁によって強固な水温二成層が形成され,深水層での長期的な無酸素化が生じる貯水池を対象に,水温,溶存酸素,酸化還元電位,無機態窒素・リン,硫化物などの水質鉛直分布の定期観測を実施し,放射冷却によって表層水温の低下が顕著となる秋季以降の水質変動に着目した.水面冷却対流の発生時期や成層破壊による無酸素化解消の時期が異なる複数年の観測データの比較検証を通じて,水質鉛直構造の季節変化特性と鉛直循環流に伴う水質変動特性に対する水面冷却の影響を考察した.とくに,深水層内の無機態窒素・リン,硫化物の動態特性を水温成層の破壊による無酸素化解消と関連付けて評価することで,冷水塊沈降を利用した水質改善技術の可能性を検討した. また,水面冷却による藻類増殖の抑制効果に関する基礎的知見を実水域スケールで得るために,富栄養化が進行する農業用貯水池を対象とした3年間の水質の定期観測結果に基づき,植物プランクトンの季節変化を気象的要因,人為的要因,水質的要因の視点から検討した.併せて,簡易的なメソコズムによる水質実験を行い,環境要因が植物プランクトンの季節変化に与える影響を考察した.さらに,水温低下による植物プランクトンの増殖制御に関する基礎的知見を得るためのビーカースケールの室内水質実験を実施した.高水温・低水温の水温要因が藻類の増殖特性に及ぼす影響を,硝酸態窒素・アンモニア態窒素・リン酸リンの栄養塩濃度に関する条件を考慮に入れて検討し,光合成に関わる制御因子の定量的評価を試みた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は次の三つのフェーズで構成され,水面冷却と冷水塊沈降を利用した水質改善技術の可能性を実験・解析的に検証するとともに,本技術の実用化・高度化を目指すものである.すなわち,フェーズ1:冷水塊沈降による無酸素化の解消効果に関する実験的検証,フェーズ2:水面冷却による藻類増殖の制御効果に関する実験的検証,フェーズ3:水理-水質モデルに基づいた冷水塊沈降による水質改善効果のメカニズムの定量化と最適な技術管理に向けたシナリオ分析である. 前年度では,フェーズ1の冷水塊沈降による無酸素化の解消効果について水槽スケールで検討し,水面冷却対流に伴う物質輸送の水理学的解析手法を新たに提案した.本年度では,引き続きフェーズ1の課題について,有機汚濁水域での水質観測に基づくデータ解析を通じて取り組んだ.水面冷却対流が水温二成層場での水質動態に与える影響を考察することで,冷水塊沈降による無酸素化の解消効果を実水域スケールで検討することが可能となった.このことから,2年間を通じてフェーズ1の目的が達成されたと判断できる.また,本年度では,フェーズ2の水面冷却による藻類増殖の制御効果について,現地観測ならびに室内水質実験を通じて検討し,基礎的知見を得ることができた.とくに,富栄養化貯水池において水温要因が植物プランクトンの増殖特性に及ぼす影響を,気象的・人為的・水質的な環境要因と関連付けて検討できた点は,フェーズ2に関する十分な成果を得たと判断できる. 本年度までの2年間で得られたフェーズ1,2の成果をフェーズ3の目的にフィードすることで,本研究のアウトカムである冷水塊沈降による水質改善効果のメカニズムの定量化と最適な技術管理に向けたシナリオ分析を達成することが可能となる.以上から,本研究の目的が着実に達成されていると判断される.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度では,当初研究計画のフェーズ3の「水理-水質モデルに基づいた冷水塊沈降による水質改善効果のメカニズムの定量化と最適な技術管理に向けたシナリオ分析」を下記の内容にて実施する. まず,フェーズ1の知見を利用することで,冷水塊沈降の影響を考慮に入れた水理-水質モデルを構築する.同モデルでは,水面冷却対流による移流効果を含めた水温・水質の一次元乱流拡散方程式を基礎式とし,オペレータ・スプリッティング法の考え方を導入した有限差分法を適用したものである.なお,水質として溶存酸素,植物プランクトン,栄養塩などの項目を考慮する.植物プランクトンを状態変数とする基礎式では,フェーズ2で得られた知見,すなわち富栄養化貯水池における水温要因が植物プランクトンの増殖特性に及ぼす影響を考慮に入れてモデル式の修正を行う. 上記モデルの妥当性を検証するために,水槽スケールの室内実験と有機汚濁水域での現地観測を実施する.まず,水温二成層場を模擬した円筒水槽内に,夏季の高水温期を想定して高濃度の植物プランクトンを表層に発生させて上で,水面冷却実験を実施する.表層水の栄養塩濃度,水面照射灯の光強度ならびに冷却温度を設置条件とし,得られた実験結果の再現計算を通じてモデルの妥当性を検証する.併せて,冷水塊沈降による無酸素化の解消効果と水面冷却による藻類増殖の制御効果を水槽実験スケールで検討する.ついで,夏季に強固な水温成層が形成される実水域にて,秋季の放熱期を対象に水温・水質の鉛直分布の現地観測を行い,本研究で提案する冷水塊沈降の影響を考慮に入れた水温・水質の鉛直一次元解析方法の妥当性・有効性を検討する.さらに,本モデルによるシナリオ分析を通じて,深水層の低温水を利用した水面冷却による水質改善の効果を検討し,実水域への現地適用の可能性を検証する.
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