研究課題
平成29年度は、本課題の申請時に設けた仮説「脱水を前処理とすることで、青果物組織を生きたまま氷点下で保存し融解できる」の検証を行った。具体的には、成形したカット野菜(特にキャベツ)およびそれを低温送風で脱水したものをサンプルとして、氷点下まで急速冷却し保存試験を行った。ここに、サンプルの生存率は、平成28年度に開発した電気インピーダンス計測法および植物生理学的手法であるTTC還元法により計測した。氷点下保存した結果、ほとんどのサンプルは生存していることが示された。また氷点下保存温度を低くすると、サンプルの生存率が低くなる傾向が示された。また脱水したサンプルは、脱水していないサンプルと比較して統計的有意差はないものの、生存率が高い傾向を示した。つぎに、サンプルが氷点下保存で生存する作用機序について測定・検討した。具体的には、サンプルの質量モル濃度の計測から氷点を求めるとともに、示差走査熱量計(DSC)を用いた冷却・融解曲線により過冷却点、更に計算により得られるエンタルピから細胞外凍結の有無について計測・検討した。その結果、氷点下保存でサンプルが生存できる主原因は「過冷却状態が保持されたことによるもの」であることを確認した。平成29年冬からは、脱水率が氷点下保存後のサンプルの生存率に与える影響について、供試する品目を増やし、上記と同様の試験を行い、青果物の氷点下保存に関する基礎的知見を得ている。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度以降は、①青果物組織の生存率の測定法開発、②青果物組織の生存率を確保する脱水・氷点下保存・復水技術の開発、③脱水後青果物の凍結回避の作用機序の解明の検討を行うことを目標とした。現時点で、①に関しては28年度電気インピーダンス法により脱水・凍結傷害を受けた青果物の生存率が定量化できることを確認しており、②に関しても脱水・(氷点下)保存した後、復水したサンプルが生存していることを確認した。また③については、青果物の氷点下保存の作用機序が過冷却であることを測定により明らかとした。よって、研究は順調に進展していると判断する。なお平成29年度は、記録的寒波が日本列島(北日本)を覆い、1月以降野菜の入手が困難であった。今後は、あらかじめ初冬に測定用の青果物を保存するなどの対応を試みたい。
今後は、氷点下保存条件(脱水率・冷却速度・氷点下保存温度・保存時間)が青果物組織の生存率に与える影響を検討するとともに、実用化を考慮して、サンプルサイズの大きい青果物の氷点下保存について検討する。また測定に供試する青果物の品目を増やし、品目にあった氷点下保存法や、それに関する脱水・保存・復水方法を検討する。特に、仮説「脱水を前処理とすることで、青果物組織を生きたまま氷点下で保存し融解できる」については、脱水することが統計的に、脱水をしないサンプルよりも生存率が高いとの結果を得ていないので、その点について測定を重ねる。なお、本研究で今年度得られた知見は、国際学会誌に投稿中である。それが掲載されれば、更に新たなデータをまとめて学会等で公表するとともに、学会誌に投稿する予定である。
(理由)平成28年度、購入予定であった測定機器を一時的に借用することができたため、その購入を29年度とした。この購入に要した金額が少し安くなったので次年度の使用額が生じた。(使用計画)29年度に購入した機器に必要となる循環液の購入に充てる。
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農業食料工学会東北支部報
巻: 64 ページ: 1-4