研究課題/領域番号 |
16K15013
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
内野 敏剛 九州大学, 農学研究院, 教授 (70134393)
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研究分担者 |
田中 史彦 九州大学, 農学研究院, 准教授 (30284912)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 高電圧 / 電場 / 害虫駆除 / ヒラタコクヌストモドキ / フジコナカイガラムシ / 殺虫 / 矩形波 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
供試虫として貯穀害虫のヒラタコクヌストモドキ(以下ヒラタ)、およびカキ等に寄生するフジコナカイガラムシ(以下フジコナ)を用いた。ヒラタについては円柱高電圧電極(直径6mm、高さ25mm、真ちゅう製)、これと同心の円筒接地電極(直径85mm、高さ50mm、アルミ平板製)で実験装置を構成し、両電極間にヒラタを置き実験を行った。また、フジコナに対しては直径160mmのステンレス製皿の底面(直径120mm)を上下に向かい合うよう配置し、下方を高電圧、上方を接地電極として高電圧電極上にフジコナを寄生させたカキをヘタを下向きにして配し、電圧を印加した。両電極間は電極と同径の透明塩ビ管で支持・連結した。 ヒラタの試験では、まず電圧波形、電圧、周波数、処理時間をそれぞれ3、3、4、3水準とし、オールペア法にて条件を組合せ、14通りの実験を行った。その結果電圧波形により死虫率に有意な差が見られ、5%水準で矩形波の死虫率が高かった。これを受け、矩形波のみで電圧、周波数を変化させ詳細な検討を行った結果、20kVのとき、4時間の処理で死虫率は45%を越えた。さらに、長時間電場に曝露する試験(矩形波、20kV、500Hz)を行った結果、4日後に死虫率は100%に達した。 フジコナでは正・負の直流電圧を印加した。電圧は±5、±10、±20kVとした。死虫率は電圧、処理時間とともに増加し、-20kV、8時間処理では100%に達したが、電圧の極性には明確な差は見られなかった。この試験によりカキの質量、色彩、硬さ、Brix値に変化はなかった。 COMSOL Multiphysics 5.2aを用い、+10kVを印加した際のカキを配したフジコナ実験装置電極間及び電極近傍の電場強度をシミュレーションにより求めた。その結果、カキ果実上方で電場強度は強いが電位は2kV程度となることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.害虫の電場忌避行動の基礎的データの採取 研究実施計画にある電圧印加後の害虫の忌避行動の観察は、実験装置上部にビデオカメラ等を設置して観察を行ったが、害虫は逃避するよりも電場により行動が制限され、死亡する虫が多く、逃避率は求めていない。これに変えて死虫率を求めているので、とくに実験計画が変更されたとは考えていない。また、実施計画にあるファンクションジェネレータにより電圧波形、電圧、周波数を変えて行う試験は順調に進展した。コンデンサを用いて電気エネルギを一部測定しているが、まだ解析が十分でなく、このあたりが実施計画通りでないが、大きな逸脱ではなく、また一方で、次年度の試験で行う予定の、玄米中に置いたヒラタコクヌストモドキに電圧を印加する試験は一部予備的に行っており、計画よりも進展していると言える(これは字数の都合上、研究実績の概要には入れていない)。 また、フジコナカイガラムシも電圧波形は直流正負に限られるが、順調に殺虫試験が進捗した。 2.シミュレーションによる電場強度の分布の把握 研究実施計画では平成28年度は平行平板にカキ果実を1個置いた場合の電極間の電場強度を計算し、電場強度分布図を作成するとしており、上述の研究実績の概要にある通り、予定通りに研究は進展した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の研究実施計画に沿って実験を進めていく。これまではほぼ28年度の計画通りに進んでおり、エネルギの算出が少し滞っているところから、これらに力を入れていく。また、貯穀害虫については、すでに殺虫に最適な条件を得ているので、29年度は、28年度に予備的に行った穀物を入れた実験装置での試験を本格的に実施していく。すなわち、二重円筒電極を作成し、内部網状円筒内に穀物(玄米)とヒラタコクヌストモドキを入れ、外部の円筒電極を接地して、中心電極に高電圧を印加する試験を行う。このとき、シミュレーション結果も利用して、スケールアップしたときの必要なエネルギーについても考察する。 シミュレーションはヒラタコクヌストモドキでは上記実験装置のジオメトリの作成と穀粒間の電場強度の計算を重点的に行う。また、フジコナカイガラムシでは実際の装置を念頭に置いた複数のカキを電極上に置いた場合の電場強度について計算を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
高圧電源は購入機材の仕様を特定するため現有のものを流用し、仕様を絞り込んだ後購入する予定であったが、殺虫試験装置の製作、データ取得に思いの外時間が掛かり、29年度に電源を購入せざるを得ない状況となった。 平成28年度の研究を行う中で、29年度の計画である穀粒中の害虫の殺虫試験を一部予備的に行ったが、この結果から装置をさらに大きくして外注する必要があり、また、それに伴い購入すべき穀物量も増加するため、29年度の物品費が増加することが考えられ,翌年度に繰り越す必要があった。また、次年度に高精度の電場シミュレーションを行うには穀粒やカキの誘電率等の電気的性質を知る必要があることから、LCZメーターの購入が必要であると考えられた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度予算のうち、次年度繰越額は約135万円で、高精度LCZメーターに約40万円、高電圧電源に50万円、また、残額は貯穀害虫の殺菌装置のスケールアップのための経費、ならびに玄米等穀物の購入費に充てる。
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