研究課題/領域番号 |
16K15014
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
渋谷 俊夫 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (50316014)
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研究分担者 |
鈴木 丈詞 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 特任准教授 (60708311)
平井 規央 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (70305655)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 植物-害虫相互作用 / 環境応答 / 植物形態 / 苗生産 |
研究実績の概要 |
物理環境制御によって植物の生理的・形態的特性を変化させることで,植物の環境ストレス耐性や病虫害抵抗性を高めることができるが,そのような植物の防御応答は,ナミハダニに関しては成育促進側に働くことが既往研究で示唆されている.そこで,本課題では「ナミハダニは植物の防御応答を好む」と仮説を立て,ナミハダニの行動特性を把握することで植物の潜在的な成長能力を診断できると考えた.本年度は,光強度およびCO2濃度に対する植物応答に注目して,それら環境要素が異なる条件に順化したキュウリ葉におけるナミハダニの産卵速度を調べ,葉の特性との関係を明らかにした.キュウリ葉の単位葉面積あたりの乾物重(LMA)は,光合成有効光量子束密度(PPFD)とCO2濃度が高くなるにともない大きくなる傾向がみられ,毛じ密度はPPFDの増大にともなって高くなる傾向がみられた.ナミハダニの産卵速度は,PPFDの増大に伴って大きくなる傾向がみられた.産卵速度はCO2の上昇によっても増大する傾向が見られたが,有意な影響は確認できなかった.本実験で得られたデータを用いてLMAと毛じ密度を説明変数とし,産卵速度を目的変数とする重回帰分析を行ったところ,両説明変数において産卵速度への正の影響が確認された.標準回帰係数を比較すると,LMAで毛じ密度の約1.4倍であり,本実験では,LMAがより大きく産卵速度に寄与していた.以上の結果は,強光や高CO2濃度といった光合成を促進する環境条件に順化した植物の特性はナミハダニの繁殖に有利に働くことを意味する. LMAの大きい植物は,糸状菌などの外敵からの防御能力が高いことが知られており,防御能力の高い植物ほどナミハダニの繁殖が促進されるという仮説は,本実験条件の範囲においては支持された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光強度およびCO2濃度が植物応答を介してナミハダニの産卵速度に影響することを示すことができた.ナミハダニは栄養的に充実した葉を好むことが明らかとなり,このことは本課題の仮説である「ハダニは植物の防御応答を好む」を支持するものである.これらの知見をもとに,次年度以降も当初計画通り実験が遂行できる見通しであるため,概ね順調に進展していると評価する.
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今後の研究の推進方策 |
光強度およびCO2濃度が植物応答を介してナミハダニの産卵速度に影響することが示された.このことは学術的にも価値のある観察結果であるが,学術誌において評価を得るためには,植物特性の評価項目を増やすと共に,重回帰モデルの精度をより高める必要があると考える.そこで,次年度前半では本年度の反復実験を行い,後半では放飼試験結果と植物の光合成能力や栄養状態との比較を行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
ハダニの放飼試験のための環境設定に予想以上に時間がかかり,植物の成分分析を期間内に行うことができなかったことが理由である.
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次年度使用額の使用計画 |
植物の成分分析を行うための消耗品に充てる予定である.
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