本研究では、鳥類の貯精嚢を主な研究対象とし、輸卵管における精子貯蔵、精子選抜および精子輸送による受精の制御システムをイメージングにより可視化し、その分子メカニズムの全容解明を目的としたものである。また、貯精嚢での長期間の精子貯蔵メカニズムを明らかにすることで、畜産や不妊治療の現場にフィードバック可能な、精子の新しい液状保存技術の開発を目指すものである。 前年度から続けていたIVISを用いたイメージングでは、蛍光色素であるSiR-hoechstおよびSYTO-61で染色したウズラ精子をメスの膣内に人工授精する方法を検討した。結果、体外からのイメージングは蛍光試薬の蛍光強度とカメラの感度が不足し、現時点では不可能であった。しかし、人工授精後のウズラから輸卵管を取り出してイメージングを行った場合、精子のシグナルが検出可能であることが判明した。しかしながら、輸卵管自体の自家蛍光が予想外に強いこと、体外での輸卵管培養手法がないことなど、今後さらに改良が必要と考えられた。 一方、精子の輸卵管内での維持機構に関しては、子宮膣移行部に存在する抗酸化タンパク質として、アルブミン(ALB)とトランスフェリン(TRF)を同定し、機能解析を行った。イオン交換クロマトグラフィーでALBとTRFを精製し、精子の生存性に及ぼす効果を調べた。ALBとTRFは共にインビトロで精子の生存性を改善し、その効果はTRFの方が高かった。そこでTRFをジゴキシゲニンでラベルし、精子表面への結合を確認したところ、TRFは精子の頭部に結合することが判明した。興味深いことに、市販のウシTRFや大腸菌に発現させた組み換えウズラTRFには効果がないことから、ウズラの天然TRFには精子の生存性を改善するための特殊な構造がある可能性が示唆された。今後、さらなる解析が必要と考えられる。
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