研究課題/領域番号 |
16K15023
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松田 二子 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (10608855)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 獣医学 / 畜産学 / 応用動物 / 細胞・組織 |
研究実績の概要 |
哺乳類が一度に排卵する卵母細胞の数は種によって決まっており、厳密なコントロールがなされているが、その制御機構は未だ解明されていない。本研究成果を応用し排卵数を任意に調節できるようになれば、ウシの双胎回避、ブタの生産効率向上、家畜およびヒトの卵巣疾患治療などへの応用が可能となり、獣医畜産・医療分野へ大きく貢献する。 本研究では、ウシの良好なモデル動物であるシバヤギを用いて、排卵数を支配的に制御する卵巣内因子を探索する。今年度は、ウシの卵巣サンプルを手にいれることができたため、これを用いた網羅的解析を行った。成熟雌ウシにホルモン製剤を投与して性周期を同期化し、卵胞期および黄体期に卵巣をサンプリングした。直径の最も大きいものを主席卵胞、それに続く大きさのものを次席卵胞として、卵胞液と顆粒層細胞をそれぞれから採取した。顆粒層細胞からはRNAを抽出し、次世代シーケンサーによる発現遺伝子のトランスクリプトーム解析(RNA-seq)に供した。3個の主席卵胞と4個の次席卵胞の網羅的mRNA発現のデータを得られた。統計解析を行い、主席卵胞と次席卵胞で有意に発現量に差がある遺伝子が500以上見つかった。また、ウシ卵胞液を用いて、二次元電気泳動法の実験系を立ち上げた。銀染色によりタンパク質のスポットが得られたものの、アルブミンと思われるスポットが大半を占めていたため、アルブミンを除去した上での二次元泳動を実施中である。ヤギについては、成熟雌ヤギにホルモン製剤を投与し、卵胞期の卵巣を開腹手術にて採取してホルマリン固定、パラフィン包埋を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画ではヤギの卵巣を解析に用いる予定であったが、通常は入手が難しい、性周期を同期化した新鮮なウシの卵巣サンプルを手に入れることができたため、これも合わせて解析対象とすることにした。ウシは最も重要な家畜の一つであり、解析結果を獣医畜産分野へ直接応用できるメリットがある。ウシ顆粒層細胞のトランスクリプトーム解析を実施し、主席卵胞と次席卵胞で発現量が有意に異なる遺伝子を多数特定できた。また、卵胞液をサンプルとして二次元電気泳動ができることを確認できた。ヤギ卵巣については、性周期を同期化して、開腹手術により主席卵胞及び次席卵胞をサンプリングする手法を確立できたため、すでに採取済みのパラフィン切片作製用卵巣組織に加え、今後卵胞液と顆粒層細胞を採取できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
ウシ顆粒層細胞のトランスクリプトーム解析で得たデータから、排卵数決定候補遺伝子を選抜し、これらの遺伝子発現をRT-PCRやin situ hybridizationにて確認する。主席卵胞と次席卵胞で発現量に違いが確認できた遺伝子について、生体を用いた機能解析を進めることとする。 ウシ卵胞液を用いて、アルブミン除去した上で二次元電気泳動を実施する。手法を確立できたら、主席卵胞と次席卵胞の卵胞液で差が出るスポットを特定し、切り出したスポットの解析に進む。 性周期を同期化したヤギから主席卵胞および次席卵胞を採取して、RNA-seqによるトランスクリプトーム解析と、二次元電気泳動によるプロテオーム解析を行う。得られたデータをウシのデータと比較し、排卵数を支配的に決定する因子の候補を見出す。
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次年度使用額が生じた理由 |
卵巣サンプルの二次元電気泳動に必要な機器を購入する予定にしていたが、すでに二次元電気泳動を実施している他の研究室に機器を借りることができたため、その分の予算の使用が抑えられた。
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次年度使用額の使用計画 |
サンプリングに必要なヤギの購入費用、新たに実施することとしたトランスクリプトーム解析に必要な試薬類や機器使用料を中心に使用する計画である。
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