研究課題/領域番号 |
16K15026
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
細井 美彦 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (70192739)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 発生工学 |
研究実績の概要 |
体細胞を成熟卵子へ移植して個体を作製する体細胞クローン技術は、絶滅危惧種の増殖や絶滅種の個体再生へのダイレクトな方法として期待できる。しかし、絶滅危惧種や絶滅種の成熟卵子を獲得することは困難あるいは不可能であるという問題がある。この問題を解決する最も現実的な方法のひとつが異種間核移植である。本研究課題においては、1) 他種の細胞核を移植された卵母細胞は体外成熟可能か、2) 体外成熟が可能な場合、その卵母細胞は細胞核が由来する種の体細胞核移植のレシピエントとして使用できるのか、3) 他種の卵核胞期卵母細胞に移植された細胞核は、卵母細胞が由来する種の成熟卵子への核移植に適した細胞核へ変化するのか、の3点を明らかにする。平成28年度においては、マウスとブタの卵核胞期卵母細胞を用いて異種間核置換を行い、成熟能を検討した。マウス卵母細胞とブタ卵母細胞ではサイズが大きく異なり、ブタ卵核胞をマウス卵母細胞に移植することは困難であるため、除核したブタ卵母細胞にマウス卵核胞を移植した異種間卵核胞置換卵母細胞を作製し、体外成熟実験に供した。作製した異種間卵核胞置換卵母細胞は、通常のブタ卵母細胞の成熟条件下で染色体凝集・第一極体放出といった成熟卵子にみられる現象を示した。平成29年度においては、ブタ卵核胞期卵母細胞にマウス体細胞核を移植した異種間体細胞核移植卵母細胞の作製および成熟を試みた。異種間体細胞核移植卵母細胞は効率よく作製が可能であり、通常のブタ卵母細胞の成熟条件下で染色体凝集・第一極体放出といった成熟卵子にみられる現象を示した。現在、体外成熟中における移植核由来の転写産物の検出を試みるとともに、異種間体細胞核移植卵母細胞の卵細胞質にマウス体細胞核を移植した異種間核移植胚、および異種間体細胞核移植卵母細胞の染色体をブタ除核成熟卵子に移植した異種間核移植胚の発生能を調べている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題においては、卵核胞期卵母細胞の顕微操作が必須であるが、これは順調である。異種間卵核胞置換卵母細胞および異種間体細胞核移植卵母細胞の体外成熟においては、通常のブタ卵母細胞の体外成熟条件において、染色体の凝集と第一極体の放出が確認できた。これらのことから、本研究における解析に技術的障害はないといえる。体外成熟培養中の卵母細胞においては転写活性が検出できなかった。このことは、ドナー卵核胞由来の転写産物がレシピエント卵核胞期卵細胞質に影響を与え、異種間卵核胞置換卵母細胞がドナー核の動物種の核移植に適したレシピエント細胞質になるという仮説が誤りであることを示唆している。現在は、異種間体細胞核移植卵母細胞を作製し、その体外成熟培養中の転写活性を調べるとともに、その成熟後の細胞質および染色体がそれぞれ異種間核移植のレシピエント細胞質およびドナー核として適しているかどうかの検討を行っている。以上から、新生児の仮説のひとつが誤りではあったが、本研究課題に必要な解析はほぼ順調に行っており、進捗状況はおおむね順調といえる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成30年度は、当初の研究計画通り、異種間核移植卵母細胞(ドナー核:マウス、レシピエント卵細胞質:ブタ)を体外成熟させ、その卵細胞質がマウス体細胞を移植するレシピエントとして適しているか、その染色体がブタ除核成熟卵子に移植するドナーとして適しているかを明らかにする。 具体的な実験としては、マウス核由来の転写産物がブタ卵細胞質をマウス様に変化させるのかを調べるため、異種間核移植卵母細胞の体外成熟培養中の転写活性の検出を試みる。それとともに、体外成熟させた異種間核移植卵母細胞の除核し、その卵細胞質にマウス体細胞核を移植した異種間核移植胚、およびその染色体をブタ除核成熟卵子に移植した異種間核移植胚の発生能を調べる。 また、卵核胞の置換においては、マウス卵母細胞とブタ卵母細胞ではサイズが大きく異なり、ブタ卵核胞をマウス卵母細胞に移植することは困難であるという問題があったが、体細胞を用いる場合はマウス卵母細胞を用いることが十分可能であるため、マウス卵核胞期卵母細胞にブタ体細胞あるいは多種の体細胞を移植した体細胞核移植卵母細胞を作製し、上記の解析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 本研究課題において、研究費の主な使途は、卵母細胞回収用のマウスおよび家畜卵巣、細胞培養用試薬、解析用試薬の調達となるが、これらの物品は全て適切な時期に適切な量を購入する必要がある。平成29年度末において使用しなかった24,861円については、これら の物品の適切かつ十分な調達には額が満たないことから、平成30年度の研究費に組み込んで有効に活用することが望ましいと判断し、次年度使用額として計上した。
(使用計画) 平成30年度分として請求した研究費および平成29年度に次年度使用額として生じた24,861円については、卵母細胞回収用の実験動物および家畜卵巣の購入費、細胞培養用試薬および消耗品の購入費、分子生物学的・生化学的・細胞生物学的解析用の試薬および消耗品の購入費、情報交換・研究成果発表のための旅費として使用する予定である。
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