ブタを健康に飼養するために,彼らの免疫を理解することは重要である。免疫のとくに重要な因子として,古くから「抗体」の存在が知られている。抗体は構造及び機能で幾つかの種類があり,主に血液内を循環するIgG,粘膜組織から分泌されるIgAが量として最も多い。一方で,腸管管腔内にはIgAと同程度の量のIgGも存在していることは既に認識されているが,これまでその機能については検討されていない。本研究では,腸管内に分泌されるIgGの免疫的役割を解明することを目的とした。 市販ブタ流行性下痢(PED)ウイルスワクチンを購入し,繁殖母豚へ用法用量通りワクチネーションを行った(V群)。ワクチン未接種の母豚も設け,比較対照とした(C群)。通常分娩後,1日齢(分娩直後),21日齢(離乳時),35日齢(離乳前期飼料給餌終了時)及び60日齢(離乳後期飼料給餌終了時)で剖検を行った。回腸から無菌的にパイエル版を採取して,常法により初代培養細胞を採取した。これらの培養細胞に,PED抗原を添加する培養区,添加しない培養区を設け,培養後のIgG濃度をELISAで測定した。 その結果,1日齢ではV及びC群間のIgG産生に変化は認められなかったが,21日齢では,PED抗原を添加していない培養区間で,V群がC群よりもIgG濃度が高値を示した。離乳以降でもこの傾向は継続し,35及び60日齢でも同様のIgG高値化が認められた。一方で,C群ブタの脾臓にPED抗原を添加したところ,21日齢でのみ顕著なIgG産生亢進作用が認められた。 以上の結果から,母豚へのPEDワクチン接種でも,腸管管腔内でのIgG産生亢進が認められたことから,IgGも腸管内で何らかの機能を有している可能性が示唆された。
|