研究課題
本研究では、豚レンサ球菌(Streptococcus suis)が宿主細胞へ侵入した後の、細胞のオートファジーによる排除機構の誘導と菌によるその回避メカニズムおよび一連の過程における有莢膜菌と無莢膜菌との協働を明らかにすることを目的とした。同一の心内膜炎病変部から分離された有莢膜菌と無莢膜菌を用いて、細胞への侵入を観察する最適時間を検討した。新生子豚の気管上皮細胞(NPTr)、豚の微小血管内皮細胞(PBMEC)、およびHelaを用いて行ったところ、有莢膜菌に比べて無莢膜菌の方が、侵入効率が高かった。S. suisの細胞への侵入試験のこれまでの報告されているプロトコールではゲンタマイシンを用いて、細胞外の菌を殺した後に細胞を破砕することで侵入した細菌数をカウントしていた。しかし、当研究室で同条件で試験を行ったところ、ゲンタマイシンのみではS. suisを完全に殺菌することができずに、正しい侵入数をカウントできないことが明らかとなった。そこで、本研究ではゲンタマイシンに加えてペニシリンを用いた。S. suis に対するオートファジーに関しては細胞内に侵入したS. suisがオートファゴソームに囲まれる過程を、共焦点レーザー顕微鏡とウエスタンブロッティングで確認している。共焦点レーザー顕微鏡では、オートファゴソーム形成過程におけるシグナル物質であるLC3に対する蛍光抗体を用いて観察をおこなった。ウエスタンブロッティングでも同様にLC3抗体を用いて行うことで、S. suis 細胞侵入時のLC3の発現を確認した。
3: やや遅れている
NPTr細胞、PBMEC細胞、およびHela細胞を用いて、S. suisの細胞侵入後の細胞内局在、オートファジーの誘導を観察した。しかし、オートファジーからの回避など細胞内動態や、Transwellプレートで培養した細胞を用いた細胞からの脱出における有莢膜菌と無莢膜菌の協働の観察は、実現していない。細胞における動態を十分に観察できていないことから、RNA-seqによるトランスクリプトーム解析についても実施できずにおり、計画に比べてやや遅れている。
①有莢膜菌と無莢膜菌にそれぞれGFP及びDsRed遺伝子を組み込んだ蛍光細菌を作製する。同時に、本菌の代表株とその莢膜合成関連遺伝子破壊株(作製済み)にも蛍光遺伝子を導入する。②有莢膜菌と無莢膜菌(蛍光遺伝子導入菌である必要はない)の単独及び混合ペアを培養細胞に接種してから、マイルドな条件で細胞を破壊して細菌だけを分離し、細菌の全mRNAを抽出して高速シーケンサーIllumina MiSeqによるRNA-seqを実施して、網羅的なトランスクリプトーム解析を行う。そこで、有または無莢膜菌単独での細胞接種時に比べて、両者の混合ペアでの接種時に発現が大きく異なる遺伝子を特定し、これを破壊した変異株を作製する。③蛍光遺伝子導入有莢膜菌と無莢膜菌の組合せについて、どちらか一方の遺伝子破壊変異株の混合ペア及び両者の遺伝子破壊変異株の混合ペアを用いて、通常のプレートに培養した細胞にそれぞれ接種し、細胞への侵入後の細胞内局在、オートファジーの誘導、オートファジーからの回避など細胞内動態を観察する。2段構造のTranswellプレートに細胞を培養し、同様に有莢膜菌と無莢膜菌のどちらか一方を遺伝子破壊変異株とした混合ペア及び両者の遺伝子破壊変異株の混合ペアを接種して、細胞からの脱出における両者の協働を観察する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
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