研究課題
本研究では、豚レンサ球菌(Streptococcus suis)が宿主細胞へ侵入した後の、細胞のオートファジーによる排除機構の誘導と菌によるその回避メカニズムおよび一連の過程における有莢膜菌と無莢膜菌との協働を明らかにすることを目的とした。同一の心内膜炎病変部から分離された有莢膜菌と無莢膜菌を用いて、本菌の細胞障害性、細胞内侵入能および侵入後のオートファジー誘導能について調べた。臨床的に強毒株が多い血清型2型のP1/7 株[Sequence Type (ST)1, sly (+)]とSUT2083株(ST28, sly (-))、およびそれぞれの無莢膜変異株であるDAT696株, SUT2080株を加えた4株を用いた。ヒト子宮頸癌由来細胞HeLa及びブタ気管上皮由来細胞NPTrに対する細胞毒性をトリパンブルー染色による生死細胞数算定で評価した結果、P1/7、DAT696、及びSUT2080株はいずれの細胞に対しても毒性を示さず, SUT2083株が両細胞に毒性を示した。4菌株の両細胞への侵入率では、無莢膜株の方が有莢膜株より高かった。これらの成績からSTによって細胞毒性に差異はあるものの、莢膜の有無が細胞内侵入率に影響することが示された。さらに、細胞内侵入後の菌の動態を解析するため、オートファゴソームのマーカーであるGFP-LC3を強発現した細胞株でオートファゴソームの形成を観察した。用いた4菌株は、いずれもオートファジーに認識されていた。これらの成績から、S. suisは、無莢膜菌が莢膜を保有する菌と比較し高い細胞内侵入能を示し、さらに宿主細胞内侵入後は、莢膜の有無に関わらずオートファジーによって認識されることが明らかとなった。
3: やや遅れている
NPTr細胞、PBMEC細胞、およびHela細胞を用いて、S. suisの細胞侵入性、細胞障害性、細胞侵入後のオートファジーの誘導を調べた。その結果、毒力の高いと思われるST1の菌よりも毒力が無いまたは比較的低いと思われるST28の菌の方が、細胞障害性が強いという予想外の成績が得られた。しかし、オートファジーからの回避など細胞内動態や、Transwellプレートで培養した細胞を用いた細胞からの脱出における有莢膜菌と無莢膜菌の協働の観察については、前年度同様、実験条件の調整に難航しており実現していない。細胞における動態を十分に観察できていないことから、RNA-seqによるトランスクリプトーム解析についても実施できずにおり、計画に比べてやや遅れている。
①有莢膜菌と無莢膜菌(蛍光遺伝子導入菌である必要はない)の単独及び混合ペアを培養細胞に接種してから、マイルドな条件で細胞を破壊して細菌だけを分離し、細菌の全mRNAを抽出して高速シーケンサーIllumina MiSeqによるRNA-seqを実施して、網羅的なトランスクリプトーム解析を行う。そこで、有または無莢膜菌単独での細胞接種時に比べて、両者の混合ペアでの接種時に発現が大きく異なる遺伝子を特定し、これを破壊した変異株を作製する。②病原由来の無莢膜株を基にして、ゲノム上に見つかる全ての細胞壁表層タンパク質遺伝子をノックアウトした変異株を作製し、それらの細胞侵入性、細胞障害性、細胞侵入後の動態を観察する。③引き続き、細胞への侵入後の細胞内局在、オートファジーの誘導、オートファジーからの回避など細胞内動態を観察する。2段構造のTranswellプレートに細胞を培養し、同様に有莢膜菌と無莢膜菌のどちらか一方を遺伝子破壊変異株とした混合ペア及び両者の遺伝子破壊変異株の混合ペアを接種して、細胞からの脱出における両者の協働を観察する。
平成29年度に豚レンサ球菌の有莢膜菌と無莢膜菌それぞれの細胞侵入後の細胞内局在、オートファジーの誘導、オートファジーからの回避など細胞内動態を観察する予定であったが、当初計画の遅延により、これらの解析が完了しなかったため、平成30年度にも解析を継続することとした。このため、未使用額は上記の解析に必要な消耗品などの購入や成果発表に充てることとしたい。
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