インフルエンザAウイルス(IAV)の感染性獲得には、ウイルス膜蛋白質の宿主プロテアーゼによりHAの開裂を受け、膜融合活性を発現する必要がある。IAVはプロテアーゼ遺伝子を持たないため、HA開裂プロテアーゼを宿主から借用する必要があり、IAV増殖場所はそのプロテアーゼが存在する組織に限定される。 野生水禽から発育鶏卵で分離したHA開裂部位がmono-basicなアミノ酸配列の低病原性IAVが、TMPRSS2遺伝子欠損マウス(KOマウス)を用いた感染実験で、生体内でのHA開裂、病原性発現にTMPRSS2が唯一必須の宿主因子であることを明らかにした。また、HA開裂部位がmono-basicなアミノ酸配列を持つIAV(本来はKOマウスで非病原性)が、KOマウスでの連続継代という『プロテアーゼ環境の変化』により、HAに2箇所のアミノ酸変異(HA開裂部位近傍の糖鎖欠失とHA開裂部位の塩基性アミノ酸へのアミノ酸置換)を伴い、KOマウス生体内でTMPRSS2以外の新たなプロテアーゼ利用能を獲得し、病原性を発現することを実証した(ウイルス変異の順番も解明)。また、HA開裂部位近傍の糖鎖欠失を有する自然界に存在するウイルスも、KOマウスでHA開裂することを実証した。一方、野生水禽と家禽のTMPRSS2等のプロテアーゼについて、HA開裂能に有意な差は認められなかった。これまで、報告されている全ての高病原性IAVは、「HA開裂部位の伸長を伴う、塩基性アミノ酸の挿入」であり、本研究での「(伸長の伴わない)アミノ酸の置換」では、鶏では低病原性と考えられる。KOマウスでの連続継代により、TMPRSS2以外の新たなプロテアーゼ利用能を獲得し、KOマウスでの病原性を獲得したが、本研究でも用いた株では、鳥類で認められる変異(HA開裂部位での塩基性アミノ酸挿入)は認められなかった。
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