研究課題/領域番号 |
16K15042
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
今内 覚 北海道大学, 獣医学研究科, 准教授 (40396304)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 腫瘍疾患 / 伴侶動物 / 横断的治療法 / 免疫療法 / イヌ腫瘍 / PD-1 / PD-L1 / 黒色腫 |
研究実績の概要 |
悪性腫瘍は、伴侶動物における最も多い死亡原因の一つであり、イヌの場合、10歳以上の死因の約45%が腫瘍であるとされている。現在、悪性腫瘍に対して外科手術、放射線療法および化学療法が単独あるいは併用して行われているが、年齢や病態、非特異的治療による重篤な副作用が原因で治療法の選択が制限される場合も多く、腫瘍に特異的に効果を発揮し、副作用の少ない新たな治療戦略が求められている。 腫瘍疾患では、生体内での排除機序が妨げられている。これは、本来宿主の過剰な免疫応答を制御するProgrammed death 1(PD-1)レセプター/Programmed death ligand 1(PD-L1)経路のような免疫チェックポイントを司る種々の免疫制御(抑制)因子が暴走し、免疫細胞を疲弊化させるためとされる。そこで、本研究は、免疫チェックポイントに係る免疫抑制因子を標的とした特異的に腫瘍を排除する抗体医薬品の開発を行った。 H28年度は、北海道大学大学院獣医学研究科および北海道大学動物医療センターに来院したイヌの悪性腫瘍、すなわち口腔内黒色腫、骨肉腫、血管肉腫、肥満細胞腫、乳腺腫および前立腺がん上のPD-L1の発現解析を免疫組織化学染色法により行った。その結果、これらの悪性腫瘍において高率でPD-L1が発現していることが明らかとなった。一方、口腔内黒色腫内に浸潤していたリンパ球上のPD-1の発現をフローサイトメトリー法で解析した結果、腫瘍浸潤細胞上に高率でPD-1が発現し、抗腫瘍効果が低下していることも明らかとなった。このことは、イヌの悪性腫瘍においてPD-1およびPD-L1の発現上昇が、腫瘍疾患における病態進行に関わる一方、同機構を標的とした腫瘍横断的な治療法樹立の可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
悪性度が高いイヌの腫瘍疾患の横断的な免疫学的解析を行い、PD-1およびPD-L1が病態発症機序に関わるという新たな知見を得ることができた。これらの知見を基盤に新規疾病制御法の標的として新規医薬品を開発し、その効果について生体内で評価することが重要である。今後は、新規医薬品を開発していく一方、種々の腫瘍に対する抗腫瘍効果などを評価し、臨床応用研究を展開したい。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの基礎研究から、イヌの腫瘍疾患において、PD-1とPD-L1の結合が抗腫瘍リンパ球の免疫疲弊化を誘因し、病態進行を加速していることが明らかになった一方、PD-1とPD-L1の結合を阻害することで抗腫瘍免疫が回復することも明らかとなった。 H29年度は、引き続きイヌを含めた伴侶動物の腫瘍疾患における免疫応答の詳細について解析を進める一方、これまで得られた情報を基に、PD-1とPD-L1などを標的とした新規治療薬を開発し、臨床応用試験を北海道大学大学院獣医学研究科および北海道大学動物医療センターで実施したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果が良好であったため、H29年度計画を前倒しして実施したため。
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次年度使用額の使用計画 |
残予算内で既に前倒しで実施している臨床研究を実施していく予定である。
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