研究課題/領域番号 |
16K15051
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
後藤 康之 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (50553434)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | マラリア / 肝障害 / MRP14 |
研究実績の概要 |
Plasmodium berghei感染BALB/cマウスにおいてMRP8/14を投与すると肝障害が増悪する。そこで、まずMRP8/14投与感染マウスにおける肝臓の病理学的解析を行ったところ、感染によって引き起こされる肝臓へのMRP8/14陽性細胞の集簇がMRP8/14により増強されることが明らかとなった。MRP8/14の投与により炎症に関与するiNOSなどの発現が上昇しており、MRP8/14陽性細胞が肝障害の原因となる炎症性反応に関与していることが示唆された。また、肝臓ではCCL2およびCCR2の発現が増強しており、MRP8/14陽性細胞の集簇にCCL2の関与が考えられた。 次にMRP8/14を介した炎症性反応に関する因子を明らかにするため、ヒトマラリア患者の末梢血白血球においてMRP8/14のmRNA発現量と相関する遺伝子の探索を行い、57個の候補遺伝子を同定した。それらには、これまでマラリアとの関連について報告がない遺伝子が多く含まれ、そのうちの2つ(GMFG, stefin A1)について解析したところ、実験感染マウスの血液中においても発現上昇が見られた。特にstefin A1については、非感染マウスにMRP14のみを投与した際にも脾臓での発現上昇が見られることから、MRP14との密接な関連が示唆された。一方、in vitroにおいてマクロファージ細胞株Raw264.7をMRP14で刺激した際には、iNOSの発現上昇が見られるもののGMFGおよびstefin A1の発現上昇は観察されなかった。以上のことは、MRP14/GMFG/stefin A1のシグナリングにおいて、マクロファージ以外の細胞の関与を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
MRP8/14追投与感染マウスの解析と、MRP14関連因子探索については、当初の計画通り進み、予想した結果が得られている。一方、初年度の計画にあったMRP14KOマウスの乾癬実験については、自家繁殖の都合で実験が十分反復されていない。ただし、次年度冒頭には再度の感染実験を計画しており、遅れの程度は小さい。
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今後の研究の推進方策 |
前述のとおり、MRP14-KOマウスにおけるマラリア肝障害の解析に若干の遅れが生じており、H29年度に引き続き解析を行うこととする。これまでに報告のあるMRP14-KOマウスはC57BL/6背景のものだけであり、我々が作製したMRP14-KOマウスはBALB/cA背景では世界初の系統である。これまでに行った予備実験により、MRP14の欠損による性状が、これまでにC57BL/6背景で報告されたものとは大きく異なることが示唆されてきており、感染実験に合わせてLPSの投与実験など行いBALB/cAマウスにおけるMRP14の役割について基礎的研究を行う必要性がある。 合わせて、当初の予定通り、H29年度はMRP8/14の産生誘導に係る原虫側因子の探索を行う。前述のヒトマラリア患者のトランスクリプトームデータを用いて、MRP14のmRNA発現と正の相関を示す原虫遺伝子の探索を行う。候補遺伝子上位10個については、大腸菌組換え蛋白を作製して免疫賦活能について解析する。候補遺伝子の選定にはP. falciparumとP. bergheiでの保存性を考慮して、組換え体の作製もP. bergheiの遺伝子配列を基に行う。マウスの骨髄よりMRP陽性細胞を分離し、in vitroにて上記マラリア原虫組換え蛋白を添加して24時間培養を行った後に、上清中のMRP14をELISAにより測定する。合わせてTNF-αやIL-6などのサイトカインについても定量を行う。
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