研究実績の概要 |
2016年度の研究で、我々が長年維持してきたICRマウス生体より摘出した精巣より、バイサルファイトシーケンシングにより、過去に報告のある糖代謝関連遺伝子Pik3r1, Pik3caおよびPtpn1のシトシンメチル化を確認したところ、過去の報告と一致しなかった(PNAS, 111(5), 2014)。従って、我々のICRマウスも用いて作製した、糖尿病モデルマウスのエピゲノム変化を網羅的に調べる必要性が出てきた。そこで、糖尿病モデルマウスの精巣上体尾部の精子および正常マウスの同精子を用いてMeDIP(メチル化DNA免疫沈降法)による次世代シーケンシングによって、両者におけるDNAメチル化程度の異なる部位の網羅的な検出を行った。結果、我々のICRマウスは、上記PNASの論文の結果と大きく異なっていた。Mafb, pde1c, neurexinI, igfr1, cacna1e, insr, stxbp4, ptpn11, casr, rfx3遺伝子が代表であり、同一遺伝子内の複数の個所で糖尿病モデルマウスでシーケンシングリード数の増加および減少が確認された。これらの一部についてバイサルファイトシーケンシングによって、実際にメチル化が変化しているかどうかを確認したところ、MeDIP次世代シーケンシングの結果と一致した。今回の一連の研究では、同一遺伝子内でも糖尿病モデルと正常マウスにおいてメチル化の多少が逆になる部位が存在することが明らかとなった。また、同じマウスの系統でも飼育環境によりエピゲノムが大きく変化している可能性が示唆され、再現性について注意が必要であることが明らかとなった。本研究のさらなる重要な点は、如何にして生殖細胞の情報が次世代へ移行するかであり、現在糖尿病モデルマウスの精子からの受精卵と正常マウス精子からの受精卵のトランスクリプトーム比較を行っている。
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