生命現象を理解するには、細胞を生きたまま観察する技術が有用である。しかし、動物細胞株の実験では、顕微鏡下で個々の細胞を長期に渡り追跡するのは極めて難しい。それは、細胞がconfluentに達した際に継代せざるを得ず、そこで観察が途絶えるからである。さらに、マウスES細胞のように、重層化を伴って増殖する場合、細胞間の識別自体が容易に障害される。本研究では、上記問題をマイクロ流体デバイスによって解決することを試みた。 マウスES細胞には、H2B-mCherryを恒常的に発現させ、内在性遺伝子へVenusをノックインした。 H2B-mCherryにより細胞の核を追跡しながら、Venusの輝度の変化を定量した。マイクロ流体デバイスは、共同研究により独自に作製した。蛍光輝度の計測の感度を高めるために、基板にはガラスを用いた。しかし、マウスES細胞はガラスへの生着が悪く、とりわけ、細胞密度が低い状態では容易に死滅することを経験した。そこで、通常の培養で使用するgelatin以外のコーティング剤や、細胞を高密度に播種するためのプロトコールを検討した。重層化を避けるためにマイクロ流路の高さを制限したので、当初は流路の目的の場所への細胞の播種が困難であったが、播種後にデバイスを遠心することにより、細胞を適切な方向へ高密度に集積させることが可能になり、細胞の生存率を高めることができた。細胞の密度が高まった際に、持続的に細胞を流路へ排出できるように、培地の適切な流速を検討した。さらに、蛍光計測時の光毒性を回避しながらも高頻度に撮影して細胞を追跡できるように、露光の強度と時間、および、撮影頻度を検討した。その結果、15分毎にZ軸方向に3枚の撮影を行いながら、10日間に渡って持続的な蛍光計測を達成した。
|