研究課題/領域番号 |
16K15064
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
佐原 健 岩手大学, 農学部, 教授 (30241368)
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研究分担者 |
金児 雄 弘前大学, 農学生命科学部, 助教 (90633610)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | モノソミー / カイコ / 第2染色体 / FISH |
研究実績の概要 |
当該年度は、形態的特徴と母親の減数分裂異常から生ずることが予測される、カイコ第2染色体モノソミー個体を得ることを第一目的とし、W転座系統雌と第2染色体正常雄の子供に現れる成長遅延と矮小化をメルクマールに選抜を行った。その結果、49個体の第2染色体モノソミー候補雄を得た。これらのうち、27個体において次世代の受精卵が得られた。第2染色体正常雄は幼虫形質マーカーを異にする2系統を使用しており、上記受精卵の一部から孵化させた次世代を検討したところ、想定通り幼虫形質がほぼ1:1に分離した。これらの一方が、モノソミー候補である。正常とモノソミー候補の双方から染色体標本作製を行い、FISHしたところ、用いたChr2-BACのシグナルが2と1となり、モノソミーの可能性が示唆された。 17個体の第2染色体モノソミー候補雄について、カイコゲノム情報をもとに設計した第2染色体上を網羅的に増幅するSTSプライマーセットを用いて、ゲノム定量PCRを行った。このうち成長遅延が認められたものの体サイズの矮小化の著しくなかった1個体は、第2染色体を2本持つと判断された。15個体は、第2染色体の一部が2本分、残りが1本分の定量性を示す欠失個体であり、残る1個体が第2染色体モノソミーと判定された。 モノソミーと正常個体について、第2染色体の一部遺伝子のmRNA発現をreal time PCRにて調査したところ、発現量の大きいハウスキーピングな遺伝子に関しては、モノソミーで正常の半分程度であったが、発現量の小さい遺伝子は個体差が大きかった。 なお、欠失個体の染色体に関して親世代に戻って特定をすすめたところ、第2染色体断片と第24染色体断片の相互転座により生じた異常染色体を有することが推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
成長遅延・矮小個体の大部分が、出発点のW転座系統雌由来の未同定異常染色体を含み、この一部は第2染色体断片により構成されていた。これは、当初想定した「成長遅延・矮小個体」=「モノソミー個体」に反していたにも関わらず、ゲノム定量PCRの結果、この異常染色体をも含まないカイコ第2染色体モノソミー個体の獲得が実現できたことは大きな進捗であった。現在、この個体に形質マーカーによる区別が可能なカイコ系統を交配し孵化を待つ状態にある。また、親世代の雄成虫のmRNA発現も調査できた。次年度の孵化個体での系統樹立が可能となったことで本研究の本筋は達成できたと考えられる。ただし、当初予定していたよりも、モノソミー個体の出現率は低く、再調査が必要なFISHが残ったことは未達と認識している。 一方で、想定外に定性できた、大きな第2染色体欠失を持つ個体でのゲノム定量PCRデータ取得、それらのデータに基づいたカイコChr2-BAC選抜ならびにFISHから、親世代における正確な性染色体構成の把握が可能となった。これは、放射線照射による突然変異系統作製から今日まで、多くのチャレンジをはねのけてきた親系統の第2、第24、W染色体の相互転座の顛末を知らしめる成果に至った。この結果から派生して、カイコW染色体の性決定因子であるFem piRNAの局在性を示すデータを提示できた。 以上より本研究は概ね順調に進捗していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
越年卵から孵化したモノソミー個体を飼育するとともに、2種類のマーカー遺伝子座を有する系統との相互交配することで、系統維持可能なモノソミー系統を樹立する。この交配によって、生ずる正常個体とモノソミー個体はマーカー形質による区別が可能となるように設計されているため、モノソミー個体と正常個体のRNAseqを行い、第2染色体遺伝子の網羅的なmRNA発現解析比較を行う。 上述の系統維持には、2種類の正常系統が必要となるため、モノソミー個体相互の交配へも挑戦する。この交配が実現できれば、第2染色体完全欠失個体が得られる。これらは、生存できない可能性が十分に予測されるため、どの時期まで胚発生が進行するのかを明らかにする。もちろん、孵化、成長することがあれば、高等生物の遺伝子進化に関わる重大発見となる。 本年度中に十分な個体数が確保できるのであれば、脱皮ホルモンに応答して発現が誘導されるecdysis triggering hormone、BHR3、変態のタイミングに関連する幼若ホルモン関連遺伝子(HMGR)については、発育に沿って詳細に解析し、正常個体と比較することにより、モノソミー個体において幼虫発育に異常をきたす原因に迫りたい。
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