研究課題/領域番号 |
16K15066
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
永田 晋治 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (40345179)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 共食い行動 / 異種同種認識 / 体表成分 |
研究実績の概要 |
平成29年では、フタホシコオロギGryllus bimaculatusで認められる攻撃行動および捕食行動が、異種同種を認識するメカニズムを介した行動様式の変化であることを明らかにした。このことは、平成28年度までの成果と相違ないことが確認された。また、フタホシコオロギは、共食い行動や攻撃的行動では、触角による被捕食者に対した触診で異種同種を識別していることがわかった。実際には、被捕食者の体表をタッピングして識別していることが観察される。この識別行動は、平成29年度にテストした直翅目昆虫全般に対しても同様に行われており、今後、本研究目的を達成するためには、様々な直翅目昆虫を利用できることも分かった。このことからも、体表成分を分析することで異種同種の認識機構が明らかにできるものと考えられた。 次に、体表成分を有機溶媒で取り除くことにより、異種同種の認識に異変が生じることを平成28年度に明らかにしたため、異種同種の識別テストで利用した様々な直翅目昆虫種の体表の有機溶媒抽出画分の成分をGCMSにより比較分析した。分析結果から、いくつかの炭化水素の化学構造が異種同種の識別に重要であることが考えられた。さらに、この炭化水素の構造から推定でいる生合成酵素の遺伝子を同定した。共食い現象が起こる際に、この生合成酵素遺伝子の発現変動を分析することにより、共食いの化学生態学的な知見が得られるものと考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、平成28年度に引き続き、生理学的な解析も行った。すなわち、フタホシコオロギが異種として認識する対象を直翅目昆虫の中でスクリーニングした。その結果、フタホシコオロギは、テストしたすべての種(バッタ、キリギリスなど)に対して、異種と認識し、最終的に捕食することが分かった。また、フタホシコオロギと近縁種である様々なコオロギ亜科での捕食スクリーニングしたところ、フタホシコオロギが、同種として誤ってしまうような種を見出すことができた。 このことは、多くの直翅目昆虫種の体表成分を比較分析することにより、同種異種の識別に用いられている成分を明らかにすることができると考えられた。 また、フタホシコオロギは、サイズを小さい異種(同種も)を優先的に捕食することも明らかとなり、サイズの違いも体表成分以外にも識別していることが分かった。 次に、スクリーニングした直翅目昆虫の体表成分を分析するため、有機溶媒で抽出される画分をGCMSに供した。ここでは、延べ300種以上の成分の化学構造を同定した。近縁種および異種として認識される種由来の成分との比較により、フタホシコオロギの種を認識するために重要な成分を同定することができた。 また、この同定できた化学構造から予想される生合成遺伝子をフタホシコオロギから同定した。
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度での成果をもとに、以下のような生理学的な解析と、生化学・分子生物学的な解析の2点を進めていく。 (1)生理学的な解析として、被捕食者および捕食者を再現良く調整できる方法を検討する。また、体表成分の生合成遺伝子をRNA干渉法などでノックダウンさせた個体の被捕食者としての検討を行う。 (2)生化学・分子生物学的な解析として、体表成分の抽出物、あるいは平成29年度に同定した異種同種の認識成分を有機合成し、それらが異種同種の識別に関わるかを検討する。さらに、被捕食者、捕食者の代謝系あるいは内分泌系を検討するため、RNA-sequencingあるいは、LCMSMSなどによる網羅的な解析を行い、共食い、捕食行動に関わる分子メカニズムに迫る。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度で解析を予定していた、RNA-sequencingあるいは網羅的な代謝物の解析のサンプル調製は、現在、検討中なため、そのための費用が平成30年度に回った。サンプルが調整でき次第、解析する予定である。
|