平成30年度では、フタホシコオロギGryllus bimaculatusにおける「共食い」行動の評価を、成虫オスの攻撃性を指標に再検討した。その結果、「共食い」行動の際の被捕食者は、細菌感染や絶食など体力が衰弱している個体が選択的に被捕食対象となっていることが分かった。また、共食い行動と並行して行っていた異種同種の認識機構に関わる成分の検討実験では、フタホシコオロギが捕食する際の攻撃対象あるいは餌となる対象は、先ず触角で体表成分を認識してから捕食していることが分かった。一方、フタホシコオロギの体表をヘキサンで拭うと同種認識が抑えられ、ヘキサンで体表の成分を拭いた個体が被捕食者となった。つまり、体表の脂溶性因子が同種識別に重要な成分であることが分かった。なお、体表の脂溶性因子をGCMSにて分析したところ、フタホシコオロギでは、主に13種の炭化水素と考えられるイオンピークが認められた。そのうち他の昆虫種の体表成分と比較すると、4~5種のフタホシコオロギ特異的な成分を同定した。 次に、体表の脂質成分のうち、炭化水素の生合成経路を担うと考えられる酵素群を網羅的に探索した。すなわち、RNA-sequencing解析により、体表成分で得られる脂質成分の構造から予想される各化合物の生合成遺伝子を同定した。その遺伝子群をRNAiにてノックダウンしたところ、同種異種の認識に変化が認められた。このことは、異種を被捕食者とする行動や、異種がフタホシコオロギとことなる体表成分を有することを考慮すると、整合性のとれた結果が得られた。以上から、フタホシコオロギの「共食い」行動では、フタホシコオロギで固有の体表脂質成分が重要であることが分かった。
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