研究実績の概要 |
脊椎動物において、マクロファージによる炎症と再生の関係が明らかにされつつあることから、本研究ではフタホシコオロギを用いて、マクロファージ様細胞の機能が脚再生に及ぼす影響とマクロファージ様細胞が産生する再生関連因子の同定を目的とした。 マクロファージ選択的に殺細胞効果を示すクロドロン酸処理により、損傷治癒は確認されるが、再生芽は形成されない。そこで、損傷治癒が起こる脚切断4時間後の切断組織において、免疫応答系Toll like receptor 2(Toll2)及び炎症性サイトカインeiger(TNFホモログ)の発現量をqPCRにより解析することでクロドロン酸処理によるマクロファージ様細胞の減少を確認した。その結果、Toll2の発現量は正常な再生脚と比較して減少するのに対し、eigerの発現量は増加することから、マクロファージ様細胞の非存在により炎症反応に異常が生じた結果と示唆された。 また、クロドロン酸処理と正常個体の脚切断組織を用いてRNA-Seqによるトランスクリプトーム解析を行った。クロドロン酸処理 vs. 正常再生脚の2群間で有意に発現変動している遺伝子2,322のうち、発現量が増加した遺伝子は1,676、発現量が減少した遺伝子は646であった。また、GO解析の結果、脚形成、筋組織形成、幹細胞の未分化性維持や増殖、免疫応答系などに関与する遺伝子の発現が有意に変動していた。再生芽形成に必要と考えられる多くの遺伝子の情報を得ることができたため、再生芽形成への影響をRNAiにより調べることで、再生初期に関与する遺伝子の同定を現在遂行中である。 さらに、再生芽における未分化細胞を可視化するため、マイクロホモロジー依存的なCRISPR-PITCh法によりSTAT遺伝子の染色体座位の3'末端にGFPをノックインすることに成功しており、現在ノックインコオロギの系統化を行っている。
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