研究課題
オカボノアカアブラムシがイネの根に寄生すると、「何らかの刺激」により寄生部位の遺伝子発現が大きく変動し、結果としてアスパラギンやグルタミンなど一部のアミノ酸が高濃度に蓄積することを見出した。この特異に富栄養化したアミノ酸組成は、アブラムシが共生菌ブフネラからアミノ酸の供与を受けるために最適化されており、アブラムシが自己の増殖のために植物の栄養状態を改変していることが示され、その調節機構の解明が待ち望まれている。本研究ではこのアミノ酸生合成経路の遺伝子発現を活性化する「分子レベルの刺激(エリシター)」を解明し、食害者にとって利益をもたらすという全く新たなカテゴリーのエリシターの存在を証明することを目的とした。現在までに安定的なエリシターの活性評価方法の開発を達成したため、本年度はエリシターの精製を目指した。既に確立したイネ根断片に試料を塗布し48時間後に褐変程度を評価する方法で、エリシター活性を評価しながら、活性物質の精製を行った。その結果、強い活性の確認された抽出物を液液分配分画で分画すると酢酸エチル層と水層に活性が分画された。水層は活性が不安定だったため酢酸エチル層をさらにODSカラムで精製すると、活性は60%MeOH/水画分に回収された。この画分の物質量はごく微量(0.1mg以下)であったため、これ以上の精製は行わずLC-MSMSで分析を行った。その結果、未知のゼアチン類縁体の存在とともに、イソペンテニルアデニン(iP: 8.33 nM/mg fr. wt.)が検出された。そこでトランス-ゼアチン(tZ)とiPの褐変への影響を調べたところ、iPおよびtZともに褐変は促進されなかったものの、iPの処理によりセロトニンの蓄積が観察された。これらのことからアブラムシは寄生の際にiPを植物体内に移行させ、必要なアミノ酸類を蓄積させ植物を富栄養化させているものと結論できた。
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Journal of Pesticide Science
巻: 81 ページ: 191-197
http://www.cc.kochi-u.ac.jp/~tebayasi/index.html