研究課題/領域番号 |
16K15071
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大門 高明 京都大学, 農学研究科, 教授 (70451846)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | カイコ / 脱皮 / 変態 / 幼若ホルモン / 脱皮ホルモン / ゲノム編集 / 実験形態学 |
研究実績の概要 |
本課題では、カイコの幼虫が蛹へと変態するためには、幼若ホルモンの体内からの喪失に加えて、蛹化能力を与える何らかの液性因子が存在するとの作業仮説を検証し、その単離を試みている。本年度は、皮膚移植による実験形態学的なアプローチによって、この作業仮説の検証を行った。すなわち、カイコの標準系統の若齢幼虫(1齢の孵化直後あるいは2齢への脱皮直後;ドナー)の皮膚片を採取し、5齢(終齢)脱皮直後のカイコ(ホスト)の標準系統の体内へと移植した。そして、ホストが蛹または成虫へと変態した後に移植片を摘出し、移植片によって新たに生産されたクチクラの構造を実体顕微鏡または走査型電子顕微鏡を用いて観察した。その結果、ドナーの皮膚片は、ホストの変態に同調して、蛹あるいは成虫のクチクラを作ることが明らかとなった。この結果は、(1)およそ80年前にドイツのPiephoがハチノスツヅリガを用いて行った結果がカイコにおいても再現可能であること、そして、(2)例え孵化直後の皮膚片であっても、終齢幼虫の体内環境に置かれるとダイレクトに変態できることを示唆している。個体レベルではカイコの1齢、2齢幼虫は変態できないことを考えると、終齢幼虫の体内には、若齢幼虫には無い何らかの液性因子が存在し、それが移植片に蛹化能力を付与した可能性がある。さらに、幼若ホルモンの受容体のノックアウト個体を用いた皮膚移植実験から、カイコの真皮細胞の蛹コミットメントは幼若ホルモンによって抑制されることも判明した。以上のように、本年度の研究から、蛹化能力付与因子(competence factor)の探索・単離に向けた基礎的なデータを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H28年度は、当初計画通りに皮膚移植実験を行い、蛹化能力付与因子(competence factor)の探索・単離に向けて基礎的なデータを得ることができた。さらに、脱皮ホルモン生合成酵素と幼若ホルモン受容体のダブルミュータントラインも樹立することができた。本年度の成果をもとに、来年度は体液注射実験を種々のノックアウトカイコ系統を用いて行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、次の実験を行う予定である。 (1) 体液注射実験:前年度の結果をふまえて、体液注射実験を行う。すなわち、終齢幼虫の体液を、カイコの若齢幼虫にインジェクションすることによって、カイコの若齢幼虫に蛹形質が早期に表れるか検証する。カイコの若齢幼虫には、幼若ホルモン生合成遺伝子(JHAMT, CYP15C1/mod)や幼若ホルモン受容体遺伝子(Met1)の各変異体を用いることができる。これによって、幼若ホルモンの影響(抗変態作用)を排除した状態で、蛹化能力付与因子の作用を観察できると期待される。 (2) 脱皮ホルモンと幼若ホルモンのダブルミュータントを用いた実験:脱皮ホルモン生合成酵素の変異体(nm-g, nobo)と、幼若ホルモン受容体の変異体(Met1)の2重変異体では、脱皮ホルモンを合成できず、かつ、幼若ホルモンシグナリングも不全となる。このような変異体の幼虫の発育・成長がどのようなものであるか調査する。予備実験では、2重変異体は2齢から3齢への脱皮ができなくなり(脱皮ホルモンを作れないため)、巨大な2齢幼虫になって死亡することが明らかになっている。このようアレスト個体に脱皮ホルモンを注射または摂食させて人為的に脱皮を引き起こした際に、その幼虫は蛹変態に向かうのかを明らかにする。 (3) 体液注射実験によって液性因子の存在が確かであると推測された場合、終齢幼虫の体液からの単離を試みる。
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