本課題では、カイコの幼虫に蛹化能力(competence for metamorphosis)を付与する液性因子(competence factor)が存在するという作業仮説の検証を行っている。平成29年度は、幼虫の体サイズが蛹化能力に与える影響を調査した。 幼若ホルモン受容体Met1のノックアウト系統と、脱皮ホルモン生合成酵素であるnm-gを欠損した系統を交配し、幼若ホルモンを受容できず、かつ、脱皮ホルモンを生合成できない個体を得た。nm-g変異体の幼虫は脱皮ホルモンを生合成できないため、1齢または2齢幼虫が通常よりも大きな個体へと成長した後に幼虫脱皮を行うことができずに斃死する。通常よりも大きく成長したMet1とnm-gの2重変異体の2齢幼虫に脱皮ホルモンの摂食または注射によって人為的な脱皮を誘導したところ、3齢に脱皮した際に成虫原基(翅原基等)が早熟変態することが判明した。これまでの知見では、カイコの成虫原基の早熟変態は最も早くて3齢から起きることが知られていたが、今回我々は2齢からの早熟変態に成功したことになる。幼若ホルモンは成虫原基の成長や変態を抑制し、この作用はインスリンシグナリングによって解除されることが報告されている(Truman et al. 2006 Science; Koyama et al. 2008 Dev Biol)。従って、今回我々が見出した成虫原基の2齢からの早熟変態は、成虫原基の変態が幼若ホルモンによって負に制御されていることの遺伝学的な証拠を提示するとともに、体サイズが蛹化能力の付与に重要であることを強く示唆している。
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