研究実績の概要 |
一昨年に引き続き、土壌懸濁液を加えた軟寒天培地を含むミニ根箱で栽培した水稲幼苗について、周囲の軟寒天とともに液体窒素で瞬間凍結した根端試料をCryo-TOF-SIMS/SEMシステムを用いて観察を行った。凍結試料の調整法や観察時の試料配置の仕方などを検討し、以前に比べ明瞭なイメージを得ることに成功した。その結果、根のごく近傍でカリウム濃度が高くなっていることが確認されるとともに、Na, リン酸、硫酸に帰属されるイオン濃度が根近傍で低くなっている傾向が示された。これらのイオンの濃度勾配は根表面から100μm以内の範囲であり、外部根圏におけるサブミリスケールの化学環境の変化の一端を明らかにすることができた。 昨年に続き、同様のミニ根箱実験において、せん毛虫が根圏細菌群集に及ぼす影響をさらに詳細に解析した、16S rRNA遺伝子のコピー数は繊毛虫の接種により、4分の1程度に低下しており、繊毛虫が単体で存在する細菌を捕食する一方で、捕食作用の影響を受けにくい集合体は生残、増殖するものと推察された。DNAを対象としたアンプリコンシークエンスでは、繊毛虫接種の有無に関わらず、Proteobacteriaが80%以上を占め、Actinobacteriaがそれに次いだ。繊毛虫無接種条件では、Pseudomonadales、Burkholderiales、Xanthomonadales、Sphingomonadalesの各目が全配列の10~33%を占めたのに対し、繊毛虫接種条件では、Enterobacteriales、Rhizobiales、および繊毛虫無接種条件とな異なるOTUが優占するBurkhholderiales目がそれぞれ24~31%を占めた。このことから、繊毛虫の捕食作用は水稲根圏に生息する細菌群集の存在形態や群集構造を支配する重要な生物因子であることが示唆された。
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