本研究では、多細胞性の成育形態をとる糸状菌の菌糸の細胞ごとの機能分化(ヘテロ性)を明らかとすることを目指した。第一に、菌糸の多細胞系の中で他とは異なる性質を示すヘテロ細胞を一細胞レベルで観察する手法を確立することを目指した。具体的には、昨年度に引き続き、マイクロ流体デバイスを活用して、菌糸の部位ごとにとりわける戦略を立てた。これまでに、モデル糸状菌Aspergillus nidulansを用いた検討によって、マイクロデバイス内にA. nidulansの胞子を入れ固定すること、その胞子を発芽させ成育させることが可能となっていた。今年度は、生育させた菌糸の大量調整系の構築を目指したが、これまでに、十分量の菌糸細胞を調整する系を構築することはできていない。世界的にみてもこれに成功した報告はないことから、今後は高度な工夫やデバイス設計が必要であると考えられる。そこで、まず特定のタンパク質を設定し、デバイス内での菌糸のヘテロ性の解析が可能であるかどうかを再確認した。チオレドキシン様タンパク質の1つであり機能が未知なAN6915は低酸素条件下でのA. nidulansの液胞の肥大化に関わる。そこで、AN6915-GFP融合タンパク質の細胞内局在を観察したところ、低酸素条件に応答して細胞質から液胞へと局在性が変化することが見出された。また、AN6915の遺伝子破壊株ではオートファジーのマーカータンパク質であるAtgH-GFP融合タンパク質の液胞への移行の頻度が低かった。このことから、AN6915株は低酸素条件に応答して自ら液胞へと移行されオートファジーを進行させる機能を持つことが示された。これは、環境条件に応答したオートファジーの代謝と液胞をマイクロ流体デバイス内で観察可能であることを示すものであった。
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