ビタミンAの活性成分であるレチノイン酸はレチノイン酸受容体(RAR)を介して幹細胞の脂肪細胞への分化を抑制し、筋芽/骨芽細胞の分化を促進する。一方、幹細胞が脂肪/骨芽/筋芽細胞に分化するためには、細胞を取り囲む細胞外基質の「至適な硬さ」があり、硬い細胞外基質は脂肪細胞への分化を抑制し、筋芽/骨芽細胞への分化を促進する。申請者は接着斑タンパク質ビネキシンαが細胞外基質の硬さを感知するセンサーとして働くことを明らかにしていたが、最近ビネキシンαのスプライシングバリアントであるビネキシンβがRARγと結合することが報告された。このことは、レチノイン酸が、細胞が分化するための「至適な硬さ」を調節することで、幹細胞の分化を制御している、という全く新しい可能性を示す。本研究では、この可能性を検証する。前年度までにビネキシン発現抑制10T1/2細胞でレチノイン酸によるアルカリホスファターゼの発現上昇が亢進していることを見出していた。今年度はこの効果が細胞株特異的ではないことを確認するために、ST2間葉系幹細胞を用いて同様の実験を行った。これらの効果を確認するために、ビネキシン発現抑制細胞にビネキシンを再発現させた細胞を作成した。再発現細胞でアルカリホスファターゼなどの分化マーカーの発現が一部の条件でレスキューされたが、レスキューされない条件、指標もあった。また阻害剤を用いた検討も行った。これらの結果は、ビネキシンとレチノイン酸シグナルが協調して細胞分化を制御している可能性を示すが、同時に複雑な制御メカニズムが働いていることも示唆され、今後さらなる検討を必要とすることがわかった。
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