研究課題
IgEは花粉症などのアレルギー反応を引き起こす抗体であり、高親和性IgE受容体(FcεRI)を介してエフェクター細胞を活性化する。FcεRIは、ヒト、マウス共にマスト細胞と好塩基球の表面に発現するが、加えて、ヒトの場合には樹状細胞にも恒常的に高レベルに発現している。FcεRIはα、β、γの3種類のサブユニットより構成されており、これら分子の発現特異性とタンパク質構造特性により、マウスの樹状細胞はFcεRIを発現しない。そこで、IgE抗体が樹状細胞を介して及ぼす生体内の免疫応答を解析するために、ヒトαのようにγとの相互作用のみで樹状細胞上に発現し、かつ野生型マウスαと同程度に強くマウスIgEと結合できる変異型αの構築を目指した。まず、αの一次アミノ酸配列をヒトとマウス間で比較し、ヒトαの立体構造情報を基に、IgE抗体のFc領域と直接結合するアミノ酸残基のうち、ヒトとマウスで異なる4アミノ酸残基を選定した。続いて、ヒトαのcDNAをクローニングし、4つのアミノ酸残基を単独、あるいは複数組み合わせてマウス型アミノ酸残基へ置換するため変異導入を施した変異体の発現ベクターを構築した。これらをマウスγ発現ベクターと共に、非血球系細胞株Plat-Eに一過性導入し解析した結果、いずれの変異体も細胞表面に発現することが確認された。IgE抗体の結合強度は、4アミノ酸残基全てをマウス型に置換した変異体で最も強く、マウス野生型αとほぼ同等であった。さらに、マウス骨髄細胞より分化誘導して調製した樹状細胞にウィルスベクターを用いてα変異体を発現させたところ、いずれの変異体も他の分子の共発現なしに細胞表面に発現していた。これらのことから、目的であったマウス樹状細胞表面に発現し、かつマウスIgE抗体と自然な強度で結合するα変異体が得られたと示唆された。
2: おおむね順調に進展している
ほぼ目指す特性を持ったα変異体を得ることができた。また、α変異体を発現させるウィルスベクター系が構築できており、恒常的にα変異体を発現するプライマリー樹状細胞を調製する体制ができている。これを用いることによって、in vitroでの樹状細胞機能解析を随時行うことができると同時に、α変異体発現樹状細胞をマウスに移植する実験によって遺伝子改変マウスの作出と同時進行でin vivo解析を進めることができる。遺伝子改変マウスの作製については、α変異体のcDNAをノックインマウスやトランスジェニックマウス作製のためのベクターへ挿入して用いることができるため、速やかに着手できる。
IgE抗体の結合活性がマウス野生型αとほぼ同等の変異体が得られているが、異なるマウスIgEクローンについての検討や濃度依存性の解析など、さまざまな条件下で確認し、構造-機能相関を考察できる定量データを蓄積する。解析の結果、より強い活性が必要と判断された場合には他の候補アミノ酸残基を選定し変異導入を加えていく。十分に高活性なαであると判断され次第、レトロウィルスベクター系を用いてマウス骨髄由来樹状細胞へα変異体を強制発現させ、抗原とIgE抗体に応答した細胞機能を解析する。具体的には、受容体を介した抗原取り込み能やT細胞活性化能、樹状細胞自身のサイトカイン産生や共刺激分子発現を評価する。同時に、α変異体cDNAをRosaローカスに挿入するためのベクター構築を行い、プラスミドが得られ次第ノックインマウスを作製する。このマウスをCD11cプロモーター制御下にCre酵素を発現するマウスと交配することによって、CD11c陽性細胞(樹状細胞)特異的にα変異体を発現するマウスを得る。IgE抗体依存的な生体応答が関わるアレルギーモデルを用いて、本マウスの生体内で樹状細胞が及ぼす作用を明らかにする。ノックインマウスの作製に時間を要する可能性が考えられるが、対応策として、野生型の骨髄由来培養樹状細胞にレトロウィルスベクターを用いてα変異体を恒常的に発現する樹状細胞を調製し、これをマウスに移植して生体内免疫応答を解析する。
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Ocular Immunology and Inflammation
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