本研究は、研究代表者らが独自に開発したアルコール空気酸化触媒システム、すなわち有機ニトロキシルラジカルと銅イオンが協奏的に分子状酸素を活性化して高化学選択的アルコール酸化を実現する触媒システムの基質適用性をフェノール類に拡張させて、分子内フェノールカップリングの精密制御に基づく多環性骨格への展開に挑戦するものである。 先に研究代表者らは、AZADO-CuCl/Bipyridyl/DMAP協奏触媒が、常温・常圧で空気中の酸素を酸化剤として、無保護アミノ基やスルフィド基を含む多様なアルコールの高効率的酸化を実現することと、単純フェノール類の空気酸化を触媒してビスフェノール型生成物を与えるという萌芽的成果を得ていた。2年計画研究の最終年度にあたる平成29年度は、3-(3-(4-hydroxyphenyl)propyl)phenolをモデル基質として、その分子内フェノールカップリングを効率的に進行させるAZADO-Cu触媒システムの反応最適化を検討した。その結果、Cr-salen錯体がニトロキシルラジカルと協奏する金属触媒としてCu-pipyridylを凌駕する結果を与えることを新たに見出した。さらに種々のsalenリガンドと溶媒、反応温度を精査し、良好な収率で所望のカップリング体を得る条件を特定することに成功した。Cr塩がニトロキシルラジカルと協奏して空気中の酸素を活性化して有機酸化反応に関する知見は前例に乏しく、合成化学的な新展開が期待される。
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