本研究の目的である、ベンゾシクロブテン誘導体の熱開裂ー分子内閉環ー環化付加の連続的変換を実現するにあたり、平成28年度はニトロン置換型ベンゾシクロブテンを基質として設計し、その合成と熱反応性の検討を行った。しかしながら、基質の新規合成ルート開拓には成功したが、予想に反して、本基質はシクロブテン環の熱開裂反応に抵抗することが判明した。 この結果を受けて、平成29年度は、第2の設計基質であるニトロ置換型ベンゾシクロブテンの合成と反応性の検討に着手した。ニトロ置換型ベンゾシクロブテンは、これまでに合成例がないため、まずは効率的合成ルートの開拓を目指したところ、オキシム誘導体のナトリウムボレート酸化を鍵とする経路にて、比較的良好な収率でニトロ体を合成できることが明らかとなった。このようにして得られたニトロ置換型ベンゾシクロブテンの熱反応性の検討を行ったところ、140~180度程度の加熱条件にてシクロブテン開裂が進行することが判ったが、引き続くニトロ基の電子環状反応が進行せず、単に加水分解を受けた生成物が得られるのみであった。これは、ニトロ基が狙ったinward回転選択性を示さないためと考え、ニトロ基の付け根に立体的にかさ高い置換基を導入することで、ニトロ基のinward回転を促そうと考えた。しかしながら、この場合においても選択性の制御は困難であった。求双極子体を共存させる条件の検討を行ったところ、最初に生じた開環体に直接的に環化付加反応が進行した生成物が、40%程度の収率で得られ、熱開裂ー環化付加の2連続型反応の進行は認められる結果であった。 今後は、イミノホスホラン置換基の反応性を活用した連続型反応の検討を行い、縮環複素環構築法の開拓を進めていきたい。
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