研究課題/領域番号 |
16K15099
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
佐々木 茂貴 九州大学, 薬学研究院, 教授 (10170672)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | リピートDNA / DNA結合分子 / 自己集積 / 協同作用 / 転写阻害 |
研究実績の概要 |
遺伝子中のリピート配列が異常伸長することでリピート病と呼ばれる遺伝子疾患を引き起こす。このリピート配列は正常遺伝子中にも低リピート数で存在しているため、疾患の原因となる長大なリピート配列のみを選択的に認識する技術の開発が強く望まれている。本研究では、独自に開発した低分子リガンドを用いて、低リピート配列と高リピート配列を識別可能な新たな結合モデルが提案された。この結合モデルは、隣接リガンド間でのMg2+錯体形成により、リガンドがリピート配列上に集積することを想定したもので、リピート数の増加に伴うリガンドのDNA親和性の増大により、高リピート配列選択的な集積を可能とするものである。 本研究で合成したリガンドはGC選択的DNA副溝結合分子であるChromomycin A3 (CRA3) をモチーフとしたanthracenone骨格に、二つの独立した金属錯体形成部位であるケト-フェノール部位とヒドロキサム酸部位をあわせもつ構造となっている。さらに、リピート配列への集積能の評価は、制限酵素を用いたアッセイ法が独自に考案した。この評価法では、d(CGCG)結合サイトを複数もつリピート配列に対して、DNA結合分子が部分的に結合しているか、あるいは全サイトで結合しているかを全長DNAの残存を指標として調べることができる。 合成リガンドの中から、H-diE-NHOHが、d(CGCG)結合サイト数が増加するとともに、全サイト結合能が増大し、リピート配列への集積性が明確に示された。また、複数のd(CGCG)結合サイトを有する配列での濃度依存的な全サイト結合能を評価したところ、H-diE-NHOHでは低濃度領域で高い全サイト結合能を示しており、高い集積効果が示唆された。 これらの結果から、合成リガンドH-diE-NHOHは繰り返しDNAに自己集積し結合する可能性が示めされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
合成リガンドのリピート配列への集積能を制限酵素を用いたアッセイ法で評価法したところ、H-diE-NHOHがd(CGCG)結合サイトを複数もつリピート配列に対してd(CGCG)結合サイト数が増加するとともに、全サイト結合能が増大し、リピート配列への集積性が明確に示された。この結果は当初予想できなかったことであり、今後のリガンド設計にとって重要な知見となるものである。さらに、2本鎖DNA結合による転写阻害を、T7プロモーター下流にd(CGCG)サイトを含むモデルDNA基質を用いてT7 RNA polymeraseによる転写反応によって評価した結果、H-diE-NHOHはd(CGCG)を5個含む基質選択的な転写反応を阻害した。この結果は、リピート病の発症メカニズムにはリピートDNAからの転写により産生される異常伸長RNAによる毒性が考えられており、リピートDNAの配列選択的な転写阻害は、リピート病治療に向けた一つの方向性を提示するものと考えられる。これらの結果から、本計画は当初の計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの検討で、酵素反応を用いてリピート配列への協同的自己集積性が確認されたので、今後は物理化学的手法により協同的作用を証明する予定である。さらに、モデル反応での検討を踏まえ、疾患関連のリピート配列への選択的な協働的集積性を示す分子を開発するため、構造活性相関を解明することを目的に、多くの構造類似体を合成し、DNA集積性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度はほぼ計画通り研究が進展した。一方、すでに所持している試薬等の使用により支出を若干抑えることができたため、163,294円の次年度使用額が発生したものである。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は構造活性相関を調べるため、種々の構造の化合物の合成を行うこととしているため、試薬等の消耗品購入費として前年度の未使用金を使用する予定である。
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