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2016 年度 実施状況報告書

P糖タンパク質立体構造のNMR解析を可能にする実験法の開発

研究課題

研究課題/領域番号 16K15105
研究機関京都大学

研究代表者

加藤 博章  京都大学, 薬学研究科, 教授 (90204487)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2018-03-31
キーワード構造生物学 / 膜タンパク質 / NMR / 多剤耐性
研究実績の概要

多剤排出輸送対P糖タンパク質は、自らATPを加水分解活性することで得られるエネルギーを利用して内向型と外向型の両状態の立体構造の間を往復運動することにより多種多様な化学構造の化合物を能動輸送する。その仕組みを解明するためには、往復運動の途中に出現する基質との結合状態の立体構造を明らかにする必要がある。しかし、その状態は準安定であるため結晶化には不向きであり、立体構造のダイナミクスの捕捉に有利なNMRを用いることが必要である。申請者は、新たに立体構造を解明したP糖タンパク質ホモログを対象として、その往復運動途中の立体構造ダイナミクスを、NMR分光学を用いて溶液状態で直接観測するために必要な実験系の開発に挑戦した。分子量が150 kDaを越える膜タンパク質のNMR測定を行うためには、1週間程度におよぶ長時間安定な試料が必要である。そこで、好熱性真核生物Cyanidioschyzon merolae由来のP糖タンパク質ホモログCmABCB1を試料に選び、メタノール資化性酵母Pichia pastorisを用いた大量培養と大量精製の実験系を構築した。さらに、NMRシグナルの重なりを減じてスペクトルの同定を可能にするため、特定のアミノ酸の特定の原子のみを安定同位体ラベルすることに挑戦した。その結果、リシン残基とトリプトファン残基に由来するNMRシグナルを捉えることができた。これにより、これまで不可能だった巨大膜タンパク質の動的構造情報をNMRで解析する方法の開発に端緒が開かれた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

研究計画では、未だ例のない巨大膜タンパク質のNMR解析を可能にするための試料調製と帰属可能なNMRシグナルを得るための方法を確立することを目指していた。以下に述べるように、これまでの研究実施により、それら目標が達成できていると考えられる結果が得られている。すなわち、15N標識したCmABCB1を用いることにより、トリプトファン残基のインドール環のNH基のNMRシグナルを計測することに成功した。そこで、分子内に6残基存在するトリプトファン残基を1つずつチロシン残基に置換した変異体を作成することにより、NMRシグナルの同定を試みた。その結果、Trp400に相当するシグナルについて同定することができた。Trp400に由来すると同定されたシグナルは、基質の添加によって変化することが観測された。このことから、シグナルの帰属が完了すれば、基質とトランスポーター分子との相互作用を解析することが実行可能であると示唆された。
一方、リシン残基については、13Cホルムアルデヒドを用いて側鎖のアミノ基を13Cジメチル化することにより特異的に安定同位体ラベルを達成することにした。まずラベル化の程度を定量するため、13Cジメチル化したCmABCB1をトリプシン消化して断片化し質量分析を行って13Cジメチル化の程度を計測した。その結果、分子内部に深く埋め込まれた場所にあるリシン残基を除いて、13Cジメチル化反応物が調製できていることが確認された。そこで、そのラベル化試料を用いて1H-13C TROSYによるNMR測定を行った。その結果、帰属可能と考えられるパターンのスペクトルを得ることができた。そこで、それぞれのリシン残基をアルギニン残基へと置換した変異体を調製し、NMRピークの同定を開始した。

今後の研究の推進方策

当初の計画通り、トリプトファン残基とリシン残基に由来するNMRシグナルを捉えることが達成できた。次は、複数存在するそれぞれの残基に由来するシグナルを帰属することが必要である。そのためには、部位特異的変異導入によりそれぞれの残基を他のアミノ酸へと置換してシグナルを減らすことにより、合理的に帰属を達成する計画である。しかし、立体構造上の場所によっては置換によりトランスポーター分子の立体構造の不安定化を起こす残基もあったことから、変異体の安定性を計測して、NMR解析に耐えるだけの安定性を持つことを確認することで、着実な前進を得られるように対策を講じる。
トリプトファン残基のインドール環のNH基に由来するNMRシグナルの化学シフトは、最も低磁場側に得られるため、15Nラベル化した塩化アンモニウムを用いて培養を行い、全ての窒素を15Nラベル化しても計測が可能である。ただし、問題のNH基以外の窒素に由来するNMRシグナルが混在していないことは、確認の必要があるため、トリプトファン残基のみを15Nラベル化するなどの方策により、確認する実験を追加する予定である。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2016

すべて 学会発表 (2件)

  • [学会発表] メタノール資化性酵母発現系を用いて15N安定同位体標識したABCトランスポーターのNMR解析2016

    • 著者名/発表者名
      宇都宮裕人、山口知宏、宮ノ入洋平、小田健人、中津亨、甲斐荘正恒、加藤博章
    • 学会等名
      第16回日本蛋白質科学会年会
    • 発表場所
      福岡国際会議場(福岡市)
    • 年月日
      2016-06-07 – 2016-06-09
  • [学会発表] [e-13C]メチオニン標識したABCトランスポーターMsbAの調製とNMR解析2016

    • 著者名/発表者名
      小田健人、山口知宏、宮ノ入洋平、ルカ、宇都宮裕人、中津亨、甲斐荘正恒、加藤博章
    • 学会等名
      第16回日本蛋白質科学会年会
    • 発表場所
      福岡国際会議場(福岡市)
    • 年月日
      2016-06-07 – 2016-06-09

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公開日: 2018-01-16  

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