研究課題
Aβ蛋白質のオリゴマーは神経毒性を有しており、その構造情報はAβオリゴマーを標的とした認知症治療薬の開発に有用となる。Aβオリゴマーはβシート構造を形成すると考えらえているが、平行型か、あるいは逆平行型かは明らかでない。このような背景の元、PICUP(光架橋反応)を利用したAβ(1-42)オリゴマーの構造解析を行った。ルテニウム試薬中に溶解させた蛋白質に光を当てるとラジカル反応により近接した2つのチロシン残基間に瞬時に架橋が形成される。本実験では、Aβモノマーの溶液を調製しPICUP反応を行った。溶液中において、Aβモノマーは過渡的にオリゴマーを形成している。Aβがオリゴマーを形成した瞬間にPICUP反応が起きれば、隣接したAβのチロシン残基間で分子間架橋が形成される。その架橋産物をトリプシンにより消化して質量分析を行う事で、オリゴマー状態における架橋形成位置の情報が得られる。今回、平行型か逆平行型か区別するため、配列上に2箇所チロシン残基を持つAβの変異体を構築し解析に用いた。また、分子内、分子間架橋産物を区別しやすくするため、非標識と均一15N標識したAβを1:1で混合して解析に用いた。得られた架橋産物をトリプシンにより消化した後、架橋断片をLCーMSにより調べた結果、逆平行型に比べて平行型オリゴマーがより多く形成される結果が得られた。ただし、不純物のピークと目的のピークとの重なりもあり、平行型と逆平行型の量比について正確に見積もるためには、データの解析方法を検討をする必要がある。これらの成果は、第54回生物物理学会において発表した。
2: おおむね順調に進展している
H28年度は、Aβ(1-42)のPICUP反応によるオリゴマー形成パターンの解析を計画していた。計画通りAβ(1-42)変異体のPICUP反応を実施して、その架橋産物のトリプシン消化断片を質量分析する事で、Aβオリゴマーの平行型と逆平行型に関する情報を得る事が出来た。質量分析の際に、不純物由来のピークと目的ピークが重なる問題のため、解析法の検討を進める必要はあるが、本課題はおおむね順調に進展している。
最近、Aβについては線維状態の立体構造が固体NMR法により解明されてきている。例えば、Aβの一つの線維構造として、平行型βシートがジグザグに折れ曲がったS字型の固体NMR構造が報告されている(Nat.Struct. Mol. Biol.(2015) 22,499-)。このほかにU字型等別の形のAβの線維構造も報告されている。そのため、平行型のAβのオリゴマーも、折れ曲がりS字型等の高次構造を形成している可能性もある。このような高次構造形成時に空間的に近接してくる2つの箇所にチロシンを導入する事で、Aβオリゴマーの高次構造を架橋産物として捉えらえる可能性がある。今回のPICUP解析により平行か逆平行型かの判定はできたが、今後、オリゴマーの高次構造を捉える事に焦点を置き、チロシンの導入位置を含めて検討を進めていく。
当初予定していた、細胞毒性試験等、一部の実験を次年度に持ち越す形になった。そのため、必要となる試薬等の購入を次年度に見送り、消耗品費が計画より少なくなった。
H28年度実施予定であったが、次年度に先送りとした実験に必要となる消耗品の購入にあてる。
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