研究課題/領域番号 |
16K15111
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
奥 直人 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (10167322)
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研究分担者 |
浅井 知浩 静岡県立大学, 薬学部, 准教授 (00381731)
清水 広介 浜松医科大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (30423841)
小出 裕之 静岡県立大学, 薬学部, 助教 (60729177)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ポリマー粒子 / ポリマーリガンド / リポソーム / 毒素 / 中和活性 / ヒストン / 敗血症 / プラスチック抗体 |
研究実績の概要 |
特徴的な官能基を有するモノマーを架橋して得られるポリマー粒子“プラスチック抗体”は、多方面から標的分子と結合することで高い標的親和性を示す。本研究では、血流中の毒素を中和する次世代型ポリマー粒子の開発を目的とした。毒素は生物が産生する有害物質であり、生体内で有害作用を引き起こし、重篤な場合には死に至る。そのため、体内で毒素を中和する療法が必要とされる。従来のプラスチック抗体は生体適合性や血中滞留性が低く、実用化は難しい。本研究では、直鎖のポリマーをリポソーム表面に直接修飾することで、リポソーム膜の流動性とポリマーの柔軟性を利用した標的タンパク質との結合を可能とし、「敗血症」の原因となるヒストンを中和するリポソーム抗体の創製を目的とした。 ポリマーリガンド(PL)は、疎水性や負電荷の特徴を持つ3種の機能性モノマー類を、RAFT重合させることで得た。PLのリポソームへの修飾は、マレイミドを介して行った。リポソームはDPPC、コレステロール(2:1)で構成した。得られたPL修飾リポソーム(PL-NP)のヒストンに対する結合性をquartz crystal microbalance(QCM)により計測した結果、PL-NPとヒストンの強い結合にはPLを構成する負電荷モノマーの割合、及びPLの長さが重要であることが明らかになった。次に、マウス内皮細胞を用いてヒストン依存的な細胞傷害のPL-NPによる阻害作用を検討した。その結果、ヒストンに最も高い親和性を示したPL-NP添加群が、有意に細胞傷害を阻害した。以上より、PL-NPを最適化することで、ヒストンに対して高い親和性を示し、毒性を中和できることが明らかになった。 現在、インビボの評価を始めており、予試験的に中和活性を見出している。以上より、脂質ナノ粒子にPLを修飾した本手法が、毒素の中和法として有用な戦略となる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、効率的に血流中の毒素を中和する次世代型プラスチック抗体“リポソーム抗体”の開発を目的とした。これまでのノンインプリント型人工抗体においては、ポリマー鎖の自由度が標的分子への結合活性の鍵となると考えられた。すなわち標的タンパク質を多方面から包み込む形で結合するためには、ポリマー鎖の柔軟なコンフォメーション変化により、個々の官能基が最適な位置で標的タンパク質のエピトープを認識する必要がある。そこで、横方向に自由度がある人工膜平面(リポソーム)上にポリマー鎖を配置するという発想に至った。リポソーム膜上に直鎖のポリマーを配置することにより、個々のポリマー鎖は標的分子の大きさを超える程度の長さで効率的に働くと予想される。 まず負電荷モノマーであるアクリル酸 (AAc) など3種のモノマーを種々の割合で配合した直鎖ポリマーを合成し、リポソーム表面に修飾した。3種のモノマーの比率は、ヒストンとの親和性を基に最適化した。ポリマー長を30 mer、100 mer、1,000 mer とし、リポソーム表面に修飾した。リポソーム抗体のヒストンへの結合活性は、QCMにより測定した。その結果、リポソーム抗体はヒストンに高い親和性を有し、長さの異なる3種のポリマーのうち、100merが最も高い親和性を示した。一般に遊離のポリマーでは、架橋された高分子ポリマーの方が、結合活性が高いと考えられるが、膜面上でポリマーがフレキシブルに移動する場合には、ある程度の長さの直鎖型のポリマーが優れている。これにより本研究の仮説が、ある程度立証されたと言える。実際にヒストンへの結合活性も確認された。さらにインビボでの中和活性が予試験的に見られており、検証データが蓄積されれば、敗血症治療薬への応用可能性が高まるとともに、リポソーム抗体という本研究のコンセプトを世界に発信できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針としては、出来るだけ早期にコンセプトの立証に必要なエビデンスを蓄積し、研究成果の論文化を図る。また研究の推進方策については、まずリポソーム抗体の動態解析を行う。体内動態については、 放射標識脂質をリポソームに組み込むことで標識したリポソーム抗体をマウス尾静脈から投与し、一定時間後にマウスを安楽死させて、各臓器・組織の放射活性から、リポソーム抗体の体内分布を解析する。また基盤となるモノマーである(NIPAm)を放射標識し、直鎖ポリマーを合成することで放射標識ポリマーを調製し、リポソームに修飾されたポリマーの体内動態を測定する。 次に血流中におけるポリマー修飾リポソームとヒストンとの相互作用について解析する。具体的にはCy5 にて蛍光標識したヒストンをマウス尾静脈内から投与し、その後にポリマー修飾リポソームを尾静脈内から投与する。そして蛍光標識ヒストンの体内分布の変化についてIVIS(インビボイメージング装置)を用いた解析を行う。また肝臓、脾臓等、各臓器・組織の組織切片を作製し、各臓器内におけるヒストンとリポソーム抗体の分布と局在を共焦点レーザースキャン顕微鏡にて観察する。 最後にリポソーム抗体による敗血症治療を行う。ヒストンを尾静脈内投与後にリポソーム抗体を尾静脈内投与し、ヒストンによる致死率が減少することを明らかにする。特に治療時間スケジュールの変化や投与量などについても精査する。またマウスにリポソーム抗体投与後の体重変化を測定する。さらに、血漿中の炎症性サイトカインIL-12 及びTNF-α の産生量を測定する。またリポソーム抗体投与後に、それぞれの臓器を摘出し、凍結切片を作製、ヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色を行い、組織変化の詳細を観察する。これらの検討を通してリポソーム抗体の有用性の証明と臨床応用可能性を明らかとする。
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