研究実績の概要 |
近年、抗体医薬品などの標的分子との特異的な結合を利用した医薬品の医療応用が盛んに行われている。ところで特徴的な官能基を有するモノマーを架橋して得られる“プラスチック抗体”は、多方面から標的分子と結合することにより、 強固な標的結合活性を示すため、抗体に代わる合成分子として注目されている。実際に我々はハチ毒メリチンに対するインプリントプラスチック抗体の、高いメリチン中和活性を見出した(Small, 2009; J Am Chem Soc, 2010)。しかしながらインプリント抗体は、調製が煩雑で大量生産は難しい。そこで特徴的なモノマーを標的認識に最適な割合で配合することで、標的分子を効率的に中和するノンインプリントプラスチック抗体の開発を手掛け、これに成功した(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2012)。 本研究では、プラスチック抗体のさらなる進化を目指して、次世代型“リポソーム人工抗体”の開発を目的とした。すなわち、直鎖ポリマーをリポソーム膜表面に配し、リポソーム膜の流動性とポリマーの柔軟性を利用した標的タンパク質との多点的結合を可能としたリポソーム型プラスチック抗体を創製した。ところで敗血症は好中球よりヒストンが血流中に放出し毒素として働く重篤な疾患で、早期治療が重要である。そこでリポソーム人工抗体が、敗血症により放出されたヒストンを速やかに中和できるかを検討した結果、ポリマー修飾リポソーム 抗体がヒストン捕捉・中和活性を示すこと、さらに動物実験で敗血症による死亡がリポソーム人工抗体により抑えられることを明らかとした(J Control Release, 2017)。この技術は種々の応用が可能であり、本研究の成果は今後の創薬に大きなインパクトを与えるものであると考えている。
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