研究課題
リゾリン脂質の一種であるリゾホスファチジルセリン(LysoPS)はラット腹腔マスト細胞の脱顆粒反応を著しく促進することが知られている。マスト細胞上にはLysoPSの構造を厳密に認識する特異的受容体が想定されているが、近年同定されたLysoPS受容体LPS1/GPR34、LPS2/P2Y10、LPS3/GPR174はいずれもマスト細胞のLysoPS受容体とは異なっていた。我々は、マスト細胞上のLysoPS受容体の解明を行う目的で、これまでに様々なLysoPS構造類似体を合成し、セリン残基をスレオニン残基に変換したリゾホスファチジルスレオニン(LysoPT)がマスト細胞のLysoPS受容体選択的かつ強力な脱顆粒促進作用を有することを見出している。本研究では、新たに約150種類のLysoPS構造類似体を合成し、マスト細胞脱顆粒促進活性について評価、構造活性相関を検討した。その結果、マスト細胞上のLysoPS受容体に対して、LysoPSよりも約100倍強力な脱顆粒促進活性を示すスーパーアゴニストの創製に成功した。また、同定した化合物の立体異性体に関して、p体の芳香族脂肪酸サロゲートでは活性の上昇が認められたのに対し、o体、m体では認められず、マスト細胞上のLysoPS受容体のリガンド認識には、セリン残基と同様脂肪酸部位も極めて重要であることが示された。今後はこの化合物を元に、マスト細胞上のLysoPS受容体特異的に結合するプローブの合成を目指していく予定である。本化合物はLysoPS受容体探索の強力なツールとなることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
今年度、受容体を同定する上で極めて重要な、受容体高親和性リゾホスファチジルセリンアナログが得られた。このことで、受容体同定において大きな進歩を果たしたと考えている。
同定した化合物(リゾホスファチジルセリンアナログ)をプローブとして用いることで、リゾホスファチジルセリン受容体をタンパク質化学的に同定することが直近の課題である。また、本リゾホスファチジルセリンアナログを用い、マスト細胞以外でリゾホスファチジルセリンが作用する局面を目指すことも、最終的なゴールの一つである。
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